条件説的因果関係について

当該自動車の運行と事故発生との間に相当因果関係の存することを立証することは必ずしも容易ではなく、その立証責任を被害者側に負担せしめることは 、無過失の立証責任を運行供用者の側に負担せしめた右自賠法の規定の精神に背馳するからである。 従って、被害者側で立証すべきものは条件説的因果関係の存在のみで足り、相当因果関係については、無過失の立証責任を負う 運行供用者の側においてその不存在を立証すべきものと解する。(広島地裁昭和45年5月8日)

精神病患者の例

原告は情意の面において何等かの障害のある精神病質者であって、些細な原因によっても神経衰弱様症状心気症を呈しやすい素質を有していたので、 本件事故による衝撃により神経衰弱様症状心気症を呈し、これにもとずき前認定のような症状を長期間呈するに至ったものであることが認められる。 そうであるとすれば原告が前認定のような長期間に亘る症状によって蒙った損害は本件事故によって通常生ずべき損害の範囲を越え、 特別の事情によって生じた損害であるといわねばならないが、・・・被告会社としてはその乗客のうちに原告のような精神病質者が あることを予想し又は予想すべきであったといわねばならない。(福島地裁昭和35年3月16日)

入院中の再骨折

控訴人は、被控訴人の再骨折後の治療費骨折部の金属の腐蝕化膿による費用等は本件事故と因果関係がないと主張するが、不法行為に基く損害についても 、違法な加害行為と損害の発生との間には相当因果関係の存することを要するものというべきところ、被控訴人が谷口外科医院に入院中、 再骨折したことは明らかであるが、本件事故による大腿骨骨折という重傷を受けたことがそもそもの原因であり、・・・本件に おいては再骨折後の治療費と控訴人の本件過失との間には依然相当因果関係ありというべきである。(東京高裁昭和36年7月28日)

変形性頚椎症

事故後頚椎鞭打ち損傷の急性症状を発し、それは1ヶ月ほどで症状が軽くなったが、後遺症として変形性頚椎症による頚椎症候群が残り、 上肢の痺れやめまい、頭痛等の症状が固定化し、軽快を望めないまま今日に至っていること、・・・それにしても、本件事故による 外力の衝撃が加わった結果、この症候群を誘発したことは明らかなのであるから、事故と現在の後遺症との間に相当因果関係あることを 否定することはできず、右のように元来経年性変化も存したとの事情は、損害算定上の事情として顧慮斟酌すれば足りると解される。(東京地裁昭和43年1月13日)

輸血による血清肝炎

被告らは右傷害のうち血清肝炎は医師が適正な処置を怠ったことによるもので本件事故とは因果関係がない旨主張するが、証拠によると、 本件事故による受傷が原因で原告が血圧降下、頻脈等の症状を呈したため、多量の輸血を必要としたが、前記のとおりその輸血が原因となって、 血清肝炎が発病したこと、今日の医学では輸血による血清肝炎の発病を完全に防止する有効な措置がなく、相当な予防的措置を講じても その発病は必ずしも稀なものとはいい得ないこと、・・・これらの事実を考え合わせると原告の血清肝炎は医師の過失に基因するものではなく、 本来事故による傷害に輸血が必要であったと認められる以上、それが原因となって血清肝炎が発病すれば、それと本件事故との間には相当因果関係が 存するものと認めるべきである。(札幌地裁昭和44年4月18日)

頚椎捻挫の症状は、遅くとも一週間以内に現れる

本件事故の際、原告の左肩が加害車に接触し、更にその反動で左腕が加害車に衝突したことが認められるが、首に衝撃を受けたことは 認められず、証拠によれば、腕の衝突によって頚椎捻挫が生ずることは一般的には考えられないことであるし、頚椎捻挫の症状も衝撃後 遅くとも一週間以内に現れるものであることが認められるところ、証拠によれば、事故翌日の昭和42年7月25日の診断では、原告の傷害は、 左肩関節部、左前腕挫傷であり、原告はそれ以外の箇所の痛みは訴えておらず、その後昭和42年8月31日までの診断過程において頚椎捻挫を 疑うような所見はなく、8月31日には原告は全然痛みはない旨医師に述べていることが認められ、以上の諸事実によれば、 本件事故と頚椎捻挫との因果関係は認め難い。(東京地裁昭和45年7月20日)

子の死亡と母親の反応性精神病

本件事故における第一義的な損害は被害者の生命侵害であり、同原告の身体に対する侵害は間接損害を以って目すべく、また、右損害は 被告にとっては所謂特別事情に基づく損害ということができる。しかし、本件において、特別事情に基づく損害について加害車の賠償範囲を 画する限界を、加害車の予見可能性の有無により決するのは相当でなく、要は、右損害が本件事故と相当因果関係を有するかどうかにより、 これを決するのが相当である。・・・原告の発病は、本件事故が、誘因になったものとは、にわかに断定し難いものがあり、ひっきょう、右は、 他の諸々の要因と本件事故とが錯綜触発して遂にこれを惹起せしめたものと推認するのが相当である。以上の如きとすれば、本件事故と 同原告の反応性精神病との間に相当因果関係の存在を肯認することは困難である。(名古屋地裁昭和46年9月27日)

被害者を看護した内縁の妻の死産

原告が病院に入院していた夫の付添看護に当たったことは、前記認定のとおりであり、過労が妊産婦、胎児に影響を及ぼすことは 公知の経験則であるが、右認定の事実から、直ちに原告の死産が夫の付添看護による過労によるものと認めるに十分であるといえないのみでなく、 ・・・原告の死産を理由とする被告らに対する慰謝料の請求は、結局失当といわなければならない。(鹿児島地裁昭和47年6月21日)

被害者の妻が過労のため依頼した家事手伝人の費用

夫が本件事故により稼動できなかったため、家事、育児のほか、右レストランの運営に当たった妻が過労および精神的負担から 病臥し、そのため東京在住の妻の母を呼び寄せ、20日間家事手伝いに従事させたとし、右母の東京・札幌間の往復航空運賃および 家事手伝い費合計52100円の損害を被ったと主張する。なるほど証拠によれば、原告が本件事故により休業中妻が前期レストラン の営業面も担当したが過労などからニ、三日床に臥せったことがあったので、その際東京在住の妻の母を呼び寄せ家事に従事させたこと、 原告において右家事手伝い費用および右母の東京・札幌間の往復航空運賃を負担したことが認められるけれども、 右の支出は、妻の健康状態の不良という事情が発生したためはじめて必要になったものであって、、本件事故による 通常損害にも、また被告の予見しまたは予見することが可能であった損害にも当たらず、本件事故との間に 相当因果関係がないものというべきである。(札幌地裁昭和48年4月20日)

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