条文では認められている?

普通、物損事故に対する慰謝料が認められることはありません。しかし物にも愛着があり、それを不注意で棄損されれば少なからぬ精神的苦痛を覚えるのは 自然な感情であると思います。何故そのよう様な苦痛に対する慰謝料は認められないのでしょうか。

慰謝料に関係する民法の条文に710条があります。それは「他人の身体、自由若しくは名誉を侵害した場合又は他人の財産権を侵害した場合のいずれであるかを問わず、 前条の規定により損害賠償の責任を負う者は、財産以外の損害に対しても、その賠償をしなければならない。」という条文です。 これをそのまま読めば、財産権を侵害した場合も、財産以外の損害に対しても賠償責任があると規定されていることから、物損についても慰謝料請求権が認められることになりそうです。 実際に裁判例も、物損について全ての慰謝料請求を否定しているわけではありません。 物損で慰謝料を請求した多くの事例では「財産上の損害が賠償されることで精神的苦痛も慰謝される。」という理由で、慰謝料の請求を認めていません。つまり 精神的損害が全く発生しないということではなく、ほとんどの場合は物の賠償が済めば、 他に賠償すべきほどの精神的損害を認めることはできないという判断がされているのです。

  • ▼ 事例・判例
  • □ 不法行為によって財産的権利を侵害された場合であっても、財産以外に別途に賠償に値する精神上の損害を被害者が受けた時には、 加害者は被害者に対し慰謝料支払いの義務を負う。

物損で慰謝料が認められた事例

交通事故で車が壊れた場合には、それがどんなに思い入れがあるものであっても、基本的に慰謝料請求は認められないと考えた方がよさそうです。 慰謝料が認められたのは、就寝中に車が突っ込んできて住居が壊されたとか、墓石、骨壷などが損壊されたなど、特殊なケースに限定されています。

普通は交通事故に遭えば、一歩間違えば死んだかもしれないという恐怖を感じたり、警察や事故車修理、保険金の請求等の手続きに煩わされたり、 大切にしていた車が「事故車」になったり、用事に遅れたりと、少なからぬ心労が重なるものですが、そうしたこと全ては「車が直れば慰謝される」という取り扱いなのです。 相手の人が誠心誠意謝ってくれれば収まりがつくことも多いでしょうが、ろくな謝罪もない場合は、慰謝料が認められてもいいと考えるのは、私だけではないと思いますが。

Q 物損事故で精神症状が出ましたが、慰謝料は請求できますか?

昨年事故にあいましたが、未だ過失割合も決 まっておらず困ってます。事故の場所が自宅のすぐ近所で通勤ルートで あるため、そこを通る度に嫌な気持ちになり動悸がした りします。夜は事故に関わる嫌な夢を見てしまうため眠 りが浅く睡眠の障害になってます。話が長引いている 分更に精神的な負担となり、乳児を持つ妻の精神的負担にもなってます。 この様な場合事故での怪我は有りませんが、事故が原因での精神的障害として今から でも訴える事は出来るのでしょうか?まだ精神科等に は行っていませんが場合によっては行こうと思いま す。また慰謝料としてはどの程度請求出来るのでしょ うか?

A 精神症状は必ずしも事故直後から現れるというものではございませんが、お怪我をなさらなかったこと、 事故から2ヶ月以上経過していること、それまでに通院をしていなかったことを考えれば、今から通院をされましても、 事故と相当因果関係のある損害と認められる可能性は低いと思います。