事故による退職

事故をきっかけに退職することになる人は大勢います。解雇されないまでも長期休業の会社への迷惑を考えると居辛くなり、誰も望む者がいない退職という選択肢を 選ぶことになるのです。被害者にとっては再就職できるまで休業損害が支払われれば理想的ですが、そのようなことは稀で、その前に打ち切られることが多いです。 再就職が容易ではないことが多いため、被害者は無職のまま長期間過ごさざるを得ないことになります。その分を慰謝料で埋め合わせてもらうことはできないのでしょうか。

休業損害を否定された場合

事故で怪我を負って会社を長期間休んだ場合、相当因果関係の認められる分については休業損害として損害が填補されることとなります。 様々な事情により治療途中で退職を余儀なくされる場合もありますが、これも再就職できるまでの期間については、相当因果関係の認められる限りは休業損害として請求が可能です。 しかし相当因果関係が認められない場合は休業損害は否定されます。例えば怪我は回復して就労の能力は備わっているのに、 意欲がなく再就職が遅れているとか、就職活動はしていてもなかなか希望の職に就けない場合などは、事故との因果関係は否定されることになるでしょう。 職が見つかっても誰もが望んだような転職に成功するわけではなく、年齢などによってはどんなに努力しても、希望の収入を得られる職業に就けないこともあります。 しかし転職によって収入減となっても、相当因果関係は否定されると思われ、減収分を逸失利益として請求することも困難です。

慰謝料では救われない

例えば事故前の年収が500万円であって、再就職後の年収が400万円に下がったとしても、その差額をそのまま請求することは困難です。 後遺障害が残った場合は労働能力の喪失という考え方で、ある程度填補される可能性がありますが、事故が退職のきっかけになったに過ぎない場合は、 一般的には慰謝料の斟酌事由として考慮されるにとどまることとなるでしょう。 しかしその金額は、長年勤めてきた職を失ったことを慰謝するには到底及ばないような金額になるのではないかと思われます。 具体的な金額は基準がありませんが、これによって慰謝料が100万円増えるなどという事はまず考えられません。せいぜい数万円とか十数万円といった程度ではないでしょうか。

転職による減収と逸失利益

学校を卒業後、20年勤めた会社を退職せざるをえなくなった人が転職する場合に、転職前と同じ条件での再就職を前提に被害者の損害を計算するのは、あまりに酷なことです。 新卒と中途入社では昇進にどちらが有利か、退職金の支給はどれくらい違ってくるのか。勤めていた会社にもよることですが、ある程度の立証が可能なケースは少なくないと思います。

現状では、ほぼ泣き寝入り

現在、こうした場合に予想される損害は、逸失利益として認められることは、残念ながらありません。 しかし、そのような場合にまで相当因果関係を持ち出して一律に損害賠償責任を否定されても、被害者の納得はえられないでしょう。 基準化は簡単ではないでしょうが、長年勤めてきた会社を解雇されたり、退職を余儀なくされたりした場合は、 実際に減収が見込まれるかぎり、後遺障害の労働能力喪失率とは別枠で、何かしらの形で逸失利益が認められるような考え方が広まることを願います。 例えば事故前と事故後の年収の差額、勤続年数、定年までの就労可能年数などにより、数表化した基準を作り、そこから得た金額に、事故がどの程度退職に寄与したのかによって減額する などの手法が考えられます。