事故と自殺の因果関係
事故後にうつ病などになり、その結果自殺する人は少なくありません。 昭和40~50年代の判例は、事故と自殺の因果関係について、傷害や後遺障害に関する損害は通常の損害として因果関係を認めるが、自殺による 損害は特別損害と捉え、これを因果関係ありというためには、加害者の予見可能性が必要であるという考え方がされていたため、加害者の責任が否定される例が多かったようです。 その後、徐々に判例の考え方も変わってきており、最近では因果関係は認めるが(もちろん個別に判断されるものですが)、 被害者がその意思によって自殺したという事情を考慮し、一定額を減額するという解決方法をとる判例が多くなっています。
判例
- ① 49歳主婦・・・・・・・・・・・・死亡慰謝料2200万円 8割減額
- ② 48歳一家支柱・・・・・・・・死亡慰謝料2100万円 7割減額
- ③ 23歳会社員・・・・・・・・・・死亡慰謝料1700万円 8割減額
- ④ 52歳一家支柱・・・・・・・・死亡慰謝料1600万円 5割減額
- ⑤ 54歳主婦・・・・・・・・・・・・死亡慰謝料2500万円 8割減額
減額前の自殺による死亡慰謝料の金額は、他の例と比べると若干低額な認定を受けているという印象を受けますが、 いくつかの例を検討しても、自殺ということを理由に低額に認定される傾向があるかどうかは不明でした。 自殺に至った原因が、被害者に固有の事情が強く作用しているようなケースでは、 斟酌事由として低めの認定とされることはあるのではないかと思います。
割合的認定による減額の大きさを決める理由は様々ですが、自殺という行為には被害者自身の意思が介在しているということから、 7~8割という大きな減額がされがちです。しかし絶望して自殺に追い込まれた被害者の心情を考えれば、 あまりにも減額幅が大きすぎるような気がしてなりません。
むろん、どのようなケースでも安易に大幅な減額がされるわけではありません。 事故前の健康状態や、事故後の後遺症の悲惨さ、その他の事情を充分に検討したうえで 判断されていることです。従って、普通の人なら自殺しても無理はないというような事情が認められるケースであれば、 比較的小さな減額しかされないケースもあります。
難しい認定
自殺者の損害について、大きな減額をするのは、うつ病や心因性の要因が大きく寄与するからという理由が多いと思われます。 ただ、この考え方の中には、どこかに「自殺者に弱いところがあった」「普通はこれくらいでは自殺などしない」という先入観があるのではないかと感じます。 精神的に弱い人が自殺をするのでしょうか。おとなしい性格の人が自殺をすれば「弱い人」と評価され、 活動的な性格の人が自殺をした場合は「よほど辛かったんだろう」と、先入観でのみ判断される危険性はないでしょうか。 家庭や仕事で重大な悩みを抱えていた人は「悩みがきっかけで自殺したのでは」とレッテルを貼られることはないのでしょうか。
少しずつ長い期間をかけて精神的に追い詰められれば、どんな健康な人でも死を意識する可能性はあると思います。 自殺を選択するまで追い詰められるには、どれほどの苦しみを味わったことでしょう。 慰謝料の認定額は、むしろ高額に算定されても良いのではないかとさえ感じます。
保険金目当ての自殺
自動車の転落事故や電柱などへの衝突事故では、自殺の可能性が問題となる場合があります。 任意保険に入っていれば、自損事故保険や搭乗者保険が支払われる可能性がありますが、約款により、故意の場合は免責とされているからです。 事故か自殺かが争われる場合、事故前の経済状況や健康状態なども判断の資料にされます。それにより保険金が支払われない例もあるのです。