ペットの慰謝料は、一般的には認められない
通常、物損事故で精神的な苦痛を受けたとしても、慰謝料の請求は認められません。それは財産的な損害が填補されれば、 精神的な損害は発生しないと考えられているからです。
愛犬・愛猫などは物として扱われるために、自動車にはねられて怪我をしたり、死亡したりした場合でも、 基本的には慰謝料は認められないと考えておいた方がよさそうです。 ただし、どのようなケースでも認められないかといえばそうでもなく、認められている裁判例も存在します。
コンパニオンアニマル
家庭の中におけるペットの地位はそれぞれでしょうが、単なる『飼い犬』『飼い猫』というだけでなく、コンパニオンアニマルという言葉であらわされるように、 『家族の一員』『伴侶』として生活を共にしているというような例もあります。そうして築かれた絆や愛情が、事故によって突然損なわれた場合に、 精神的ダメージが損害として評価するに足らないとは言い切れないはずです。慰謝料が認められるか否かは、ペットとのかかわり方など、様々な 事情を総合的に判断して決められることになるでしょう。 認められる慰謝料の金額は一概にはいえませんが、世の中のペットに対する考え方の変化とともに、変わってゆくものと思われます。
動物が受けた傷害の場合
人間の場合は怪我の程度や通院状況などに応じて傷害慰謝料が請求できます。これは受傷した本人が苦痛を感じたことに対する慰謝料です。 動物が苦痛を受けたことについて、動物自身には権利能力が認められていないため、慰謝料請求権が発生する余地はないと思われますが、 飼い主が慰謝料を請求することは可能なのでしょうか。
請求可能なケースも
人が傷害を負った場合も、本人にのみ慰謝料が認められるのが基本ですが、その傷害が、死に比肩するような程度である場合には、 近親者には独自の慰謝料請求権が発生しうると考えられています。そうすると、同じようなことがペットに起きた場合にも、適用される余地はあるものと考えられます。 例えば、そのペットが二度と歩けないような身体になり、食事や排泄についても、常時飼い主が世話を焼かなければならないなどの、重篤な傷害を負った場合などです。 しかしそういった判例の積み重ねもないことから、現状では、動物が受けた傷害についての慰謝料を飼い主が請求するのは、容易ではないと思われます。
死亡の場合
ペットの死亡慰謝料が認められる場合は、どのような点が考慮され金額が定められるのでしょうか。 前にも述べましたが、動物は法律上、権利の主体となっていないため、自身の精神的損害について慰謝料を請求することはできません。 つまり、死亡した場合に慰謝料が認められたとしても、それはペット自身に認められた慰謝料請求権を飼い主が取得するのではなく、ペットが死亡したことにより 悲しみなどの精神的損害を蒙った飼い主等に、直接発生するものなのです。そうすると、次のような点が考えられます。
慰謝料請求のポイント
『ペットとのかかわり方』・・・普通に『かわいがっていた』ということだけでは、慰謝料は認められにくいでしょう。精神的に依存する部分が大きく、 大きな精神的打撃を受けたことなどの立証が必要だと思います。
『ペットの時価』・・・時価が高ければ命の値段も高い、ということではありません。 例えば子犬のときに購入した価額が50万円で、死亡時の時価が10万円程度だった場合には、10万円の賠償しか受けられない可能性がありますが、 生命のない中古車とは異なり、個性のある生物の場合は、その買い替えによっても満足が得られる可能性は低いと考えられることから、 購入価格と時価の差が大きければ大きいほど、慰謝料によって調整すべきではないかと思われるからです。
そのほか、『ペットの年齢』、『事故の悲惨さ』、『加害者の態度』などが考えられます。
- ▼ 事例・判例
- □飼い犬を散歩させていたところ、自動車と接触し犬が死亡した事案で、飼い主の責任を7割とし、慰謝料として2万円を認めた。