性別による慰謝料格差はあるのか
基本的には男女の違いによって慰謝料に違いがでるということはないと考えていいでしょう。苦痛に対する耐性や、通院の不便、社会的活動への支障、 後遺障害による支障、死亡の場合の苦痛に、男女の違いによる格差を設ける合理的な理由はありません。
胎児を失った場合
例外的に、胎児を失った場合の慰謝料については、母親に認められても、父親には認められにくいという傾向があります。 これは胎児を失ったことに対する悲しみが、父親よりも母親の方が勝るという考えに基づくものではありません。 胎児を失った場合に母親の慰謝料が父親に比べて認められやすいのは、生まれてくるはずだった子供を失うことの喪失感だけではなく、 胎児が妊婦の身体の一部をなしていたということから、身体に侵襲を加えられたという意味で合理的と考えることができます。
しかし数カ月すれは出会えたであろうわが子の顔を見ることができなくなった苦痛は、 父親であろうとも強いものなのは容易にうかがい知れるところです。 そうした精神的苦痛を安易に切り捨てるのは許されないことでしょう。
外貌醜状の男女間格差
これまで外貌醜状については後遺障害等級表において男女別に等級が定められていました。女性の方が上位等級に設定されていたのです。 男性よりも女性の方が接客業などに従事することが多く、 一般的に労働能力喪失の程度が大きくなると考えられていたことなどが理由です。しかしこの考え方は男女平等を定めた憲法に反するとして 違憲と判断された(平成22年5月27日京都地裁判決。6月10日確定)ことを受けて、 労災の後遺障害等級表も改められました。そのため現在は等級表による男女間の格差は解消されています。 等級表の男女差がなくなったことで、今後は慰謝料の金額も差異がなくなっていくのではないかと思われます。
なぜ過去に男女差があったのか
以前は現在よりも職業選択の幅が性別により偏っており、女性が接客などの職につく率が高く、男性が顔に傷があっても、労働能力に大きな影響はないと 考えられていました。そのため男性は女性より低い等級に認定されるようになっていたのです。
労災というのは労働者のための保険で、後遺障害の程度に応じて等級別に定められた労働能力喪失率にそった給付がされます。 そこに慰謝料という考え方はありませんでした。つまりあくまでも慰謝料とは無関係に、労働能力の喪失という視点から男女差が決められていたのです。
そして自賠責保険の後遺障害別等級は、労災の障害等級表をほとんどそのまま利用していたため、慰謝料も含めた金額について、 女性の方が高額に認定されてきたのです。
女児の逸失利益の調整
幼児等の若年者に後遺障害が残った場合は、逸失利益を算定する根拠となる基礎収入は男女別の賃金センサスを用いるケースが多いです。 賃金センサスでは男女間に大きな開きがあることから、同じ後遺障害が残っても、男児の方が損害額が高額になります。 男女の違いが平均賃金の違いとなって表れるのは統計上の事実であるため合理的な計算方法ではありますが、 幼児の時点で「平均」「統計」という物差しに着目するあまり、将来の可能性を考慮せず、男女間の損害額に大きな差をつけてしまう計算方法は妥当ではないという 指摘も多くあります。そのため、この格差是正の方法として、女児の慰謝料を増額する場合があるのです。