親族間の事故とは
夫が運転する車に妻が同乗していました。夫の不注意で自損事故を起こして妻が負傷した場合、妻は夫に対して、慰謝料などの損害賠償請求をすることができるのでしょうか。
自動車損害賠償保障法第3条では、「自己のために自動車を運行の用に供する者は、その運行によつて他人の生命又は身体を害したときは、 これによつて生じた損害を賠償する責に任ずる。ただし、自己及び運転者が自動車の運行に関し注意を怠らなかつたこと、 被害者又は運転者以外の第三者に故意又は過失があつたこと並びに自動車に構造上の欠陥又は機能の障害がなかつたことを証明したときは、この限りでない。」 と規定されています。ここで使われている「他人」という言葉が、自分以外の人全てをさすのか、あるいは身内を除いた他人を指すのかによって、夫が妻に対して損害賠償責任を負うのかどうかに違いがでてきます。
自賠責保険と任意保険の対応
自賠責保険では、運行供用者および運転者以外の者を他人といい、単に夫婦関係にあることのみによって他人ではないという判断はされません。 したがって運行供用者ではない妻は他人とされ、保険金が支払われます。以前は妻は他人とはされずに、 保険金が支払われなかったり、慰謝料については二分の一に減額されて支払われる などの取り扱いをしていた時期がありましたが、現在は普通に支払われることとなっています。
妻が運行供用者となる場合は自賠責保険が支払われません。例えば普段は妻のみが使用している妻名義の車で、妻の指示に従い 夫が運転している最中に事故となった場合は、支払われない可能性があります。
任意保険の約款の賠償責任条項では、親族が被害者になった場合は保険金を支払わないと規定されていますので、任意保険の 賠償責任保険からは支払いが受けられません。
判例
【裁判例1】夫が運転中の事故で、同乗していた妻が死亡した場合に、無償同乗者であること、同居の親族であることから、 慰謝料を大幅に減額した。(東京地裁昭和47年10月18日判決)
【裁判例2】一般に円満な家族共同体の構成員相互の間において過失による加害行為が発生してもその加害行為がその円満な家族共同体を破壊するようなものでなく 現にその後も円満な共同生活を継続している場合には、被害者は右加害行為によって被った肉体的精神的苦痛を加害者との人間関係の中で慰謝され、あるいは 加害者に対し宥恕の意思を表示していると認められることにより慰謝料請求権は発生しない。(名古屋地裁昭和47年4月26日判決)
【裁判例3】夫婦の一方が不法行為によって他の配偶者に損害を加えたときは、原則として、加害者たる配偶者は、被害者たる配偶者に対し、 その損害を賠償する責任を負うと解すべきであり、損害賠償請求権の行使が夫婦の生活共同体を破壊するような場合等には権利の濫用として その行使が許されないことがあるにすぎないと解するのが相当である。 けだし、夫婦に独立、平等な法人格を認め、夫婦財産制につき別産制をとる現行法のもとにおいては、一般的に、 夫婦間に不法行為に基づく損害賠償請求権が成立しないと解することができないのみならず、円満な家庭生活を営んでいる夫婦間においては、 損害賠償請求権が行使されない場合が多く、通常は、愛情に基づき自発的に、あるいは、協力扶助義務の履行として損害の填補がなされ、 もしくは、被害を受けた配偶者が宥恕の意思を表示することがあるとしても、このことから、直ちに、所論のように、 一般的に、夫婦間における不法行為に基づく損害賠償義務が自然債務に属するとか、損害賠償請求権の行使が夫婦間の情誼・ 倫理等に反して許されないと解することはできず、右のような事由が生じたときは、 損害賠償請求権がその限度で消滅するものと解するのが相当だからである。(最高裁昭和47年5月30日判決)