- 非接触事故
- 動物との接触事故 飼い主の責任
- 緊急自動車との事故
- 心神喪失時の事故
- 道路管理の瑕疵(路面凍結、穴ぼこ、段差)
- 転がってきたボールによる事故
- 幼児の飛び出し
- 死角
- ハイドロプレーニング現象
- グレア現象(蒸発現象)
- ヘルメット不着用
- 駐車車両の違法性
- 小石をはねた事故
非接触事故の過失について
たとえ接触していなくても、被害者が危険を避けるために転倒や他のものに衝突するなどして被害を被った場合は、相当因果関係が認められ、加害者に対して損害賠償請求ができる場合が多いです。
しかし加害者の立場からすると「相手が勝手に驚いて勝手に転んだだけ。言いがかりだ。」というような状況もあります。 確かに被害者の過剰な反応が原因で事故になったというケースも存在しており、避けずにまっすぐ進んでいれば事故にならなかったという理由で、 相当因果関係が認められないケースもあります。
判例を検討してみると、加害者の不適切な行動の程度、すなわち被害者の進路妨害等の程度と、被害者の事故回避の可能性を比較し、 過失割合を認定することが多いようです。その結果、被害者の過剰反応も一因と認定されれば、何割か(例えば1割とか2割など)を被害者側に加算して 考える傾向が伺えます。
路外進出車と直進バイクの非接触事故の事例
【kh-e1】
直前に合図をした路外進出車Bと、転倒した直進バイクAの非接触事故につき、バイクAの過失を15%とした事例。
路外進出車と直進バイクの非接触のサンキュー事故の事例
【kh-e2】
道を譲られた(サンキュー事故)路外進出車Bと、電柱に衝突した直進バイクAの非接触事故につき、バイクAの過失を4割とした事例。
T字路交差点での非接触事故の事例
【kh-e3】
T字路交差点を時速50kmで進行中の被害車Aと、左方道路より一時停止せずに進入してきたBの非接触事故につき、Aの過失を15%とした事例。
非接触事故の相談事例
Q 片道2車線で、私は左車線、相手は右車線をほぼ横並びに走行しておりました。前方に信号があり、 信号は青でしたが、ここの交差点は街灯がとても少なく大変暗い場所でしたので、スピードは20~25kmぐ らいだったと思います。交差点に差し掛かる寸前に、私から見て右横ちょっと前を走行していたワゴンが、ウインカーを点けながら突然私のバイクの前に車線変更してきました。とっさにハンドルを左にきってブレーキをか けましたので衝突は免れましたが、急ハンドルと急ブレーキの為、私はバイクごと左へ転倒してしまいました。保険会社が主張する75:25(バイクが25)はあんまりだと思うのですが、ご意見をお聞かせくださいますよう、宜しくお願い致します。
A未接触であるということのみでバイク側に過失を認める事は妥当ではありません。 未接触の事案で過失が問題になりますのは、過剰な反応で転倒などに至ったといえるようなケースが多いので、 バイク側としては、車両間の距離や進路変更の合図のタイミングなどの事実関係をつぶさに立証し、 過剰な反応ではなかった、転倒は必然のものだったということを上手く主張されてはどうかと思います。 具体的な割合について明確にはお答えできませんが、進路変更禁止場所や合図がなかったケースでは100:0という事もありますが、 相手方が先行していたこと、ウインカーをつけながら車線変更を行ったことを考えれば、 非接触の事故でなかったとしても、バイク側に2割程度の過失が問われるケースが多いです。そうすると保険会社は未接触の過失を5程度と見積もって提示をしてきているとも考えられます。今一度進路変更が行われた位置や合図のタイミング等を整理し、接触事故の場合の妥当な過失を見極めてから、非接触であった事情を加算すべきかどうか検討されてはいかがかと思います。
動物との接触事故 飼い主の責任
飼い犬などが道路へ飛び出してきて、ヒヤリとした経験をお持ちの方は多いと思います。不幸にも動物と衝突してしまい、 動物が怪我をしたり、車が破損したりして損害賠償請求をする場合の過失割合はどうなるでしょうか。
民法718条には、動物の占有者は、その動物が他人に加えた損害を賠償する責任を負う。ただし、 動物の種類および性質に従い相当の注意をもってその管理をしたときは、この限りでない、と規定されています。
犬が道路に飛び出したりしないように管理すべきであるのに、それが不十分なために逃げ出して車と衝突した場合などは、占有者に対して損害賠償請求することが可能です。 しかし、過失割合は、必ずしも逃げ出した犬が100%悪いということにはならず、事故態様を個別に検討して判断することとなります。
例えば、住宅街の中の道路を制限速度内で走行していた車の前に、突如民家の玄関先から犬が駆け出してきたとします。塀があるので見通しは悪い状況です。「見通しが悪いのだし、 犬が突然飛び出してきたのだから、飛び出した方が100%悪いのでは?」と思い込みがちですが、そうとは限りません。犬が玄関ではない場所、例えば低めの塀を、 庭から道路へジャンプして飛び出してきたということであれば、車側の過失は0か、それに近い数字になると思われますが、玄関というのは人の出入りがある場所であり、 車の運転者としては、そこから子供が飛び出してくるということも考えて、いつでも回避できるように走行する責任があります。そうした注意義務を果たせていない場合は、 自動車側にも過失が問われる可能性があるのです。このケースでは、自動車側にも35%の過失が認められています。他にも散歩中に飼い主の握っていた綱を振り払い、道路に飛び出した犬が 車と衝突した場合に、自動車側に減速等の措置を講じなかったとして、20%の過失を認めた例もあります。
歩行者対自動車の場合は、事故態様ごとに基準化が図られていますが、動物対自動車の場合は基準化はされていません。過失を判断するにあたっては、独自の配慮が必要ではないかと思います。 例えば、動物が逃げないように相当の注意がされていたのか、それともいい加減な管理状況だったのか、その動物が小さくて発見が容易でなかったのではないか、動きが俊敏で回避の余地がなかったのではないか、 夜間の事故では発見しにくい色だったのではないか、などについてです。
緊急自動車との事故
救急車、消防車、パトカーなどに代表されます。特例により、緊急走行の際は、赤信号での進行や、追い越し禁止場所での追い越しなどが認められており、一般車両は緊急自動車の 進行を妨げないようにしなければなりません。
緊急自動車と衝突した場合の過失
【158】【159】
Aが青信号で、サイレンを鳴らしているBが赤信号の場合は80:20です。
Aが優先道路で、サイレンを鳴らしているBが非優先道路の場合は80:20です。
主な修正要素(ケースによっては修正しない場合もあります) | |
見とおしのきく交差点 | Aに+10 |
Bが徐行 | Aに+10 |
Bの明らかな先入 | Aに+20 |
Bの著しい過失 | Aに+20 |
Aの先行車両停止 | Aに+20 |
Aの著しい過失 | Aに+10 |
Aの重過失 | Aに+20 |
幹線道路 | Aに0~-10 |
Bの著しい過失・重過失 | Aに-10~-20 |
【事例1】 片側一車線の国道を緊急走行中のパトカーが、前方車両を追い越しのため、反対車線にはみ出して走行、対向車に衝突した事故で、対向車運転者が飲酒運転であったこと、 および自車線内で回避する余地が十分にあったことなどから、パトカーの過失がゼロとされた。
【事例2】 赤信号で交差点に進入した救急車と、青信号で進入したタクシーの事故で、タクシーの一方的な過失を認定した。
【事例3】 後方から消防車のサイレンが迫ってくるのを認識したため、交差点内で右折中の普通貨物車が交差点内で停止したところ、未接触の消防車が前方の塀に衝突した 場合に、事故の原因は、他の車両等に対する配慮を怠ったまま、高速度での走行を続けたためであると、消防車の自損事故と認定した。
道路交通法では、緊急自動車が接近してきたときは、一般車両に対して、交差点を避け、かつ、 道路の左側に寄つて一時停止しなければならないという規制を設けています。一般の交通ルールに従っていたとしても、この規制に従っていない場合は、重い過失が 問われることになります。
心神喪失時の加害事故
民法第713条には、精神上の障害により自己の行為の責任を弁識する能力を欠く状態にある間に他人に損害を加えた者は、 その賠償の責任を負わない。ただし、故意又は過失によって一時的にその状態を招いたときは、この限りでない、と規定されています。 心神喪失とは『精神上の障害により自己の行為の責任を弁識する能力を欠く状態』のことをいいます。
民法713条の規定からすれば、心神喪失時に起こした事故で他人に損害を与えた場合は、賠償責任を負わなくてよいことになります。 具体的には運転中に、突如病的な発作などによって心神喪失状態になり、加害事故を起こした場合が考えられます。ただし、自らの故意や過失によって心神喪失状態を招いた場合にはこの限りではありません。 例えばてんかん発作のために医師に運転を止められているときに車を運転し、発作のために事故を起こした場合などは責任を負わされることになるでしょう。
※民法713条は、709条の不法行為責任には適用されるが、自賠法3条の運行供用者責任には適用されないという考え方もあります。 その場合は運行供用者責任を負う可能性があります。
※運行供用者責任・・・自動車損害賠償保障法第三条では、自己のために自動車を運行の用に供する者は賠償責任を負うとされています。 運行供用者とは自動車の運行支配をしている者ともいえます。具体的にはオーナードライバーはもちろん、 タクシーを所有しているタクシー会社や友人に車を貸して事故を起こされた貸主などです。
- ▼ 事例・判例
- □ 突然の心神喪失により国道を逆走し、正面衝突を起こして原告を死亡させたが、刑事事件では不起訴となった被告につき、 運行供用者責任による損害賠償を認めた。
てんかんと運転免許
てんかんは、自動車運転免許所持の欠格事由とされていましたが、2002年6月の法改正により、「発作が再発する恐れがないもの、発作が再発しても意識障害 および運動障害がもたらされていないものならびに睡眠中に限り再発するもの」については、欠格事由から除外されました。
道路管理の瑕疵(路面凍結、穴ぼこ、段差)
路面が凍結していたために自動車がスリップし、事故となる場合があります。 道路に通常備えるべき安全性が確保されていなかった場合は、道路管理者に対して損害賠償請求をすることもできますが、どのような場合が通常備えるべき安全性がなかったといえるのでしょうか。
道路管理者の責任が認められる場合は、加害者との共同不法行為となることが多いと思われます。
【事例1】当日の気象条件、本件道路が山間部にあること、とりわけ高架部分の路面は凍結し易いことから、これを予見して本件事故前に凍結防止策を講じることは十分可能であったのにこれを怠ったとして、 管理者の責任を認めるとともに、スリップして停車中の車に衝突した運転者にも責任を認めた。
【事例2】雪はやんでいたが高速道路の高架橋で路面凍結のため玉突き衝突が発生した。凍結防止策や速度制限などの安全確保策が何らとられておらず、管理者の瑕疵を認めた。
道路管理の瑕疵が認められなかった例
【事例1】トンネル内の除雪作業がされ、県が冬期に設置する路面凍結の警告板によって運転者の注意が促されている状況にあることから、本件トンネル内の危険な状況は原告において認識しうるもので、 これに対する適切な運転操作によって危険防止が可能であったというべきであるから、道路管理者を無責とした。
【事例2】路面凍結していた橋梁部で、大型トレーラーがスリップして発生した事故につき、本件橋上の道路は、橋梁部であるという特質を考慮しつつ通常要求される通行上の注意を払いさえすれば、 危険発生のおそれはなかったというべきであると、道路管理者を無責とした。
道路の段差で転倒しました。治療費などは請求できますか?
Q 夜間、自転車で走行中、道路工事現場の横を通りかかった(作業中ではありませんでした)のですが、アスファルトの一部が切り取られていて、段差ができており、 その為にハンドルを取られ転倒し、入院する怪我を負いました。こういった場合も慰謝料や治療費を請求できるのでしょうか。
A 走行位置や道路の明るさ、自転車に無灯火がある場合など、様々な事情により過失相殺される可能性が高いですが、 工事現場の柵などの外側に危険な段差などができていたということであれば、道路管理者に損害賠償請求できる可能性も高いと思います。 当事務所でもこうしたケースで現場調査図面などを作成し、被害者の方が管理者から賠償金を受け取られたというケースの経験は何度かございます。
公園でボール遊びをする者に過失はあるのか
最近はボール遊び禁止の場所も増えていますが、子供が公園でボール遊びをするのは、ごく自然のことです。 とりそこなったボールが、思わぬ方向へ転がっていくのも、ありふれた出来事といえるでしょう。そのボールがたまたま道路に転がっていった時、ボール遊びをする者に過失を問うことがはたしてできるのでしょうか。
道路上でボール遊びをしていて、そのボールのために事故が起きた時は、ボール遊びをしていた人には過失ありとされることが多いでしょう。 それは道路でボール遊びをすれば、交通の邪魔になるなどの危険があるということが、当然予想できるからです。では公園内ではどうでしょうか。 例えば狭い公園で、柵も低く、ボールが少し跳ねれば道路に転がっていくということが、簡単に予測できる状況であれば、事前に危険を認識できますので、過失が認められる可能性が高いと思われます。
ほとんどのケースでボール遊びをしていたものの過失が認められることとなると思いますが、例えばサッカー用に高いネットが張り巡らされた広い公園で、たまたま蹴ったボールが小さなネットの破れを抜けて道路上に転がりでた場合などは、過失を問われないケースもあると思われます。
公園横の道路を通行する車両の注意義務
公園から突然サッカーボールが転がり出てきて、バイクがそれに乗り上げて転倒した場合、運転者にはどの様な過失があるのでしょうか。
突然ボールが転がってきて、それに乗り上げて転倒し、大けがをしたとしたら、100%被害者という気持ちになるのが人情かもしれません。 ところが運転者には重い注意義務が課せられています。もしもその公園の見通しが良く、子供がボール遊びをしているのが容易に確認できるような場合は、公園内からボールや子供が 飛び出してくることを予見して速度を落とすなどの行動をとるべきであるとされています。 そうした行動を取らずに事故になった場合は、転倒したバイクの方の過失が大きくなる場合もあるのです。 下図はバイクに8割の過失が認められた事例です。
子供が蹴ったボールでの事故の、親の監督責任
11歳男児が蹴り、小学校校庭から転がり出たサッカーボールをよけようとしたバイク男性が、骨折後、認知症を発症、一年半後に死亡した事故につき、最高裁は、 「日常的な行為の中で起きた、予想できない事故については両親は監督責任を負わない」とした。 (平成27年4月9日最高裁判決)
なお、上記最高裁判例は『サッカーゴールも設置された小学校の校庭で、日常的な使用方法で練習をしていたこと、 ボールが道路上に出ることが常態ではなかったこと、男児が殊更に道路に向けてボールを蹴ったなどの事情もないこと』などから 通常は人身に危険が及ぶものとはみられない行為によってたまたま人身に損害を生じさせた場合は、 予見可能であるなどの特別の事情が認められない限り、子に対する親権者の監督義務を尽くしていなかったとすべきでない、と結論づけています。 逆にいえば、ボールを蹴っていた場所や、その他の道路状況等によっては、たとえサッカーゴールが設置されている場所であっても、また、ボール遊びが禁止されていない公園であっても、両親の監督責任を問われるケースもあるということが考えられます。
幼児の飛び出し事故
日ごろからどんなに注意をしていても、子供は道路に飛び出すことがあります。「急に飛び出してこられては、車としても避けようがない。」と思われる人もいるかもしれません。 「うちの子供が、急に飛び出したのが悪いのです。かえってすみませんでした。」そう考える親御さんもいらっしゃるかと思います。 しかし、車のドライバーとしては、見通しの悪い道路などは、いつ何が飛び出してきても良いように、 注意して運転しなければならないのです。飛び出し事故であっても、自動車側は大きな責任を問われます。
下図は路上駐車車両の陰から飛び出し横断をした幼児に、反対車線を時速20キロ程度で走行中の車が衝突した事例ですが、 加害者は前方の安全確認が十分に行えない状況で進行したとして、80%の過失とされています。
自動車は危険な乗り物
自動車の運転があまりにも一般化しているため、自動車の危険性に対する意識は低くなっているようです。住宅街を歩いていても、もしここで子供が飛び出してきたら、 この車は避けられないな、と感じる運転をしている人をよく見かけます。むしろそうした運転の方が一般化しており、慎重なドライバーは、 のろま扱いされる風潮さえあるのではないでしょうか。自動車事故で毎年数千人が亡くなっています。ここ数年は厳罰化の効果で減少の一途をたどっていますが、 少々減ったくらいで危険度が下がっているわけではありません。自動車は危険な乗り物という意識を常に持ってハンドルを握りましょう。
子供が飛び出すのは、住宅街の比較的幅の狭い道路が多いのではないでしょうか。歩道のない道路で、塀の陰や駐車中の車の陰から飛び出すときに事故になりやすいといえるでしょう。 そうした事故の場合でも、加害者側の過失は8割~9割とされる場合が多くなっています。「急に飛び出してきた」という言い訳は、きかないものと心得ておきましょう。
運転席からの死角
自動車の運転席から視認できない部分を死角といいます。被害者が死角に入っていたためにその存在に気がつかず事故が発生した場合、 運転者の無責が主張される場合もありますが、そのような場合に運転者が免責されることはあるのでしょうか。 あるとすればどのようなケースが考えられるのでしょうか。
一般には自動車の運転者には、死角内に人がいないかどうか、安全確認をすべき注意義務があると解されています。たとえば周囲の状況などから、幼児などが自動車の死角に 入り込む可能性を予見できるのであれば、運転者にも過失ありとみられます。幼稚園の送迎バスから降りた園児が、バスの死角に入り込んでいるのに気がつかずに事故になった場合などが考えられます。 駐車中の自動車を発進させる時も、運転席から見通しうる範囲のみ確認するだけでは足りず、自動車の前方に回ってみるなどの注意義務があるとされた例もあります。
運転者の過失が否定された例
被害者が死角内にいたことにより、運転者の過失が否定された例も存在します。バスの乗客だった幼児が、降車後転倒し、車体の下に倒れているのに気付かずに発車したケースです。 このケースでは特別の事情のない限り車体の下に転がり込んでいる幼児等がいないかまでを注意する義務はないと判断されました。
運転者の過失が否定されるケースは稀かと思いますが、被害者側にも不注意に死角に入りこんだということで、過失相殺をされる例が多く見られます。
ハイドロプレーニング現象とは
水の溜まった路面を高速で走行すると、路面とタイヤの間の水が潤滑剤の働きをして、タイヤが路面との接触を失う場合があります。これをハイドロプレーニング現象といいます。
ハイドロプレーニング現象が起こると、ハンドルが効かなくなり、自動車の制御が困難になります。主に高速道路で発生する現象です。
運転者の責任
ハイドロプレーニング現象が起きたことが原因で自動車の制御ができなくなり事故に発展した場合は、運転者は責任を負うのでしょうか。 それとも不可抗力ということで免責される余地はあるのでしょうか。
過失を認めた例
当時路面が雨で濡れていたにもかかわらず、制限速度を4 0km以上超過する時速約120ないし130kmの高速で被告車両を走行させたた め、路面上をスリップした後、ハイドロプレーニング現象を起こして制御不能となっ て、路側壁に接触して停止し、その直後に後続の本件車両が被告車両に衝突したもの と認められる。被告は、ハイドロプレーニング現象の発生は不可抗力であるから、被告には過失が ない旨主張する。しかしながら、前記認定の本件事故直前の走行状況に照らせば、同 現象は被告が自ら招いたものと認められるから、被告の前記主張は採用できない、とした。
過失を否定した例
大型バスの転覆事故につき、ハイドロプレーニング下の事故であって一般に予見可能性はなかったとして、過失が否定された。
歩行者の蒸発現象(グレア現象)とは
夜間対向車とすれ違うときに、前照灯の眩しさによって一時的に道路中央付近の人などが見えなくなる現象をいいます。 蒸発現象によって事故が発生した場合の運転者の責任も、ハイドロプレーニング現象の場合と同様に、個別の状況に照らし予見可能性の有無等を検討し、 過失の有無が認定されるものと考えられます。
ヘルメット着用の違法性の有無による違い
いまやオートバイに乗るときにヘルメットを着用することは常識となっておりますが、昔はヘルメットを被ることは義務化されていませんでした。 たとえば1986年以前は50ccの原動機付自転車はノーヘル運転でも法令による義務違反とはならなかったのです。オートバイや自動車を運転する時には、ヘルメットに限らず、 望ましい服装などがありますが、それらを守っていなかった場合の過失はどのように評価されるのでしょうか。
着用が法的に義務づけられていたわけではない昭和61年1月の事故で、原付自転車運転者がヘルメット不着用で脳挫傷によって死亡した事案につき、 ヘルメットを着用していなかったことを過失相殺の事由として斟酌するとされ、1割の過失相殺が適用された事例がありますが、別の事例では、義務違反ではないということを理由に、 過失相殺しないと判断されたものもあります。
着用が義務化された後には、多くの例で過失相殺がされているように見受けられますが、注意義務違反や速度超過などの過失に加算されている例が多く、何%程度の過失とされるのかは明らかにはできませんでした。 ただし一般的には「著しい過失」として取り扱われています。
- ▼ 事例・判例
- □ ヘルメットを被っていなかったが、傷害等の部位(頸部)からして、 ヘルメット非着用が原告の損害の拡大に寄与したものと認めることはできないとした事例。
ヘルメット以外の事例
サンダルを脱いで裸足で車を運転中に追突されて足指を骨折した被害者の事案で、裸足で運転したから足指を骨折したものと、 50%減額を主張する加害者に対し、裸足で運転したことは違法ではないし、事故が加害者の一方的過失により発生していることから、損害額を減額することは相当ではないとした事例があります。
駐車車両の違法性
信号待ちなどで適法に停止している車両(被追突車)に追突をした場合は、被追突車に責任はありません。一方で、駐車禁止場所などに違法駐車していた車両に 追突した場合は、被追突車に責任が発生する余地があります。駐車車両に過失が認められるのは違法駐車の場合が多いかと思いますが、 道路交通法上は駐車違反ではなくても、 周囲の道路状況や駐車車両の状態などから駐車車両の責任を認めた判例(名古屋高裁昭和52年9月9日判決)もあります。
例え違法駐車であっても、追突車の前方不注意の過失が大きく問われるケースが多いでしょう。実際の裁判例では個々の事情により 駐車車両の過失を10%とか、40%とか、70%とか様々に判断しています。これは例えば、事故現場の交通量であったり、道路の見通しであったり、 周囲の明るさ、車両の大きさ、被追突車の速度など、様々な事情を考慮して決められるからです。
ドアー開閉事故
駐停車中の車に衝突する形態として、ドア開閉事故というのがあります。停車中の車の脇を通過しようとしたバイクや自転車が、 突然開いた車のドアに衝突して死傷するというものです。この場合は駐車車両に追突するよりも追突車の過失は小さく扱われるのが一般で、追突車側に0~20程度の過失とされる例が多いようです。
不法行為と過失責任
ドライバーが交通事故の加害者となって損害賠償責任を負わなければならないのは、主に不法行為(違法に他人の権利や利益を侵害)責任があるからです。 そして不法行為の成立要件の一つとして『故意や過失』のある事があげられています。つまり故意や過失がない場合は、不法行為責任は負わなくてよいと いう事になっているのです。
ドライバーとしては過失といえるのかどうかわからないような出来事で事故を引き起こしてしまう場合もありますが、 その判断基準はどのようになっているのでしょうか。
不法行為法における過失とは『結果の発生を認識すべきであったのに認識しなかったこと』をいうとされています。 この事について次の例を参考に考えてみましょう。
小石をはねた過失の責任は?
国道を車で走行していたら、タイヤで小石をはねあげて、並走していた車のドアーに当たったらしいのです。 私としても確かに石をはね上げたような感触の後、相手の方の車に何かがぶつかる音を聞きました。 ちょうど信号で止まった時に相手の方に声をかけられたので、一緒に傷を確認しました。誠実そうな方で言いがかりではないと思うのですが、 このような場合も修理代を負担しないといけないのでしょうか。
小石を跳ねたことに過失があるのかどうかということを考えてみましょう。 道路交通法第71条では、水溜り等を通行するときは、水や泥をはねて他人に迷惑を及ぼすことのないようにすることと定められています。 水や泥をはねないようにするためには、水溜り等を避けて通行するか、避けられない場合はその前で徐行や一時停止をすることによって飛散を防止する事が 考えられます。これらを怠り、他人に迷惑を及ぼせば、同法違反となるばかりでなく、民法上の損害賠償責任を負う可能性も高いといえるでしょう。
しかし小石の場合は水溜りとは異なり、その存在を意識しながら運転するのは一般ドライバーにとって困難なことといわざるを得ません。 必要もないのにことさら小石がたまっているような路肩付近を高速で走行したとか、小石が大量に道路上に散乱しているのに注意を払わずに 走行した等の事情がない限り、小石を跳ね飛ばして他人に害を与える結果は予見できないと判断され、過失は問われない可能性が高いと思われます。