ドアーの開閉事故は、『運行』による事故である
自動車の運行とは、輸送、交通機関としての自動車が点の存在でなく物体であることからして、位置の移動である走行そのものに限らず、 走行の前提となる道路上の空間の一部の占有ならびにその占有に伴う扉の開閉等の付随的な装置の使用を含むのは当然であって、停車中の扉の開閉によって生じた 本件事故もまた加害車の運行によるものであること言を待たないところである。 (大阪地裁昭和40年1月29日)
牽引されている車が、そのハンドル操作により起こした事故は『運行』による事故である
貨物自動三輪車が故障したため、その修理調整の為修理業者の運転する自動三輪車に約5メートルのロープをつけ、本件三輪車を牽引して走行中に、同三輪車 荷台に乗っていた亡吉中が飛び降りたため発生したものであることは明らかである。自賠法第三条は、自己のために自動車を運行の用に供する者は、 その運行によって他人の生命、身体を害した場合はその損害を賠償する責任がある旨規定し、同法第二条第二項はこの法律で『運行』とは人または物を運送 するとしないとにかかわらず、自動車を当該装置の用い方に従い用いることをいう、と規定し、道路交通法第五九条は自動車の牽引をなしうる場合を、 同法施行令第二五条は故障自動車の牽引方法を、それぞれ規定している。従って、自賠法二条の当該装置とはエンジン装置、即ち原動機装置に重点をおいた 規定ではあるが、必ずしも右装置にのみ限定する趣旨ではなく、他の種々の走行装置等を含めた趣旨であると解すべきである。よって、エンジンの故障により ロープで牽引されている自動車も、自らのハンドル操作により、或いはフットブレーキまたはハンドブレーキにより、その操縦の自由を有する場合には、当該装置の 用い方に従って用いた場合に該当し、故障車自体の運行行為であるというべきである。 (広島高裁岡山支部昭和42年3月17日)
サイドブレーキが緩んで動き出し、海中に転落した場合は『運行』にあたる
本件事故が運転中であり、訴外石川がその運転を誤って海中に転落したとは如何にしても認めることができず、転落に至る経緯及びその原因は次のごとくであったと推認される。 即ち、訴外石川は本件事故車を運転して訴外亡向井を助手席に同乗させて本件事故現場に至り、傾斜のある部分に停車してサイドブレーキをひいた。更に事故当時は 季節的に寒い時期であったから、ヒーターを使用するためにエンジンは切らず、チェンジレバーをニュートラルにいれ、ランプは前照燈、車幅燈共に消して前部座席を 運転席助手席共に後方に倒し、ズボン下着等下半身の衣類を脱ぎまさに訴外亡向井との間に不倫な関係を結ばんとしていた。ところが、その時本件事故車が突然動き始め、 そのまま車両前部から先に海中に転落したため右両訴外人が死亡するに至ったものであるが、前記認定のごとく本件事故車の後部には何ら異常が認められず、 又指紋等も検出されなかったのであるから、始動転落の原因としては、停車中のところ他の車両が後部から衝突したり或いは何者かが後部から押したりした為ということは 到底考えられず(そもそも〔証拠略〕によれば本件事故車の場合サイドブレーキが完全に入っていれば本件事故現場程度の傾斜があるとしても二、三人で押しても 動かないということが認められる)、また、〔証拠略〕によれば、本件事故現場には前記認定の如き傾斜があるため、サイドブレーキを四センチメートル引いただけで は静止していることは不可能であることが認められるから、結局当初はサイドブレーキを完全に引いていたものであるが、何かのはずみによりそれがはずれ四センチメートル のところまでゆるんだために静止が不可能となって動き始め、そのまま傾斜に添って海中に転落したものと認めざるを得ない。ところで、被告らは前記認定の如き 態様の事故は自動車損害賠償保障法第三条にいわゆる「運行」によるものとはいえないと主張するのでこの点につき判断するに、自賠法第二条第二項は「運行」 を「人または物を運送するとしないとにかかわらず、自動車を当該装置の用い方に従い用いることをいう」と定義するが、そもそもこれを如何に解するかについては 広狭二義の考え方があり、その一は発進から停車までを「運行」と解し、他の一は民法715条の「業務の執行」と対置して考えることにより停車或いは駐車中もなお 「運行」と解するのである。本件の場合、後説によれば「運行」そのものであることは明白であるが、前説によるとしても本件事故が「運行」と密接な関連性を 有することはいうまでもないから「運行によって」ということができる。よって右いずれの説によるも本件事故が本件事故車の「運行によって」生じたものであることに 帰すべく、従ってこの点に関する被告らの主張は容れることができない。 (横浜地裁昭和45年10月26日)
扉の開閉、荷物の積み下ろしも『運行』にあたる
ところで貨物自動車はその車種からみて荷物の積込み、荷下しを予定しているものであり、その用途からみれば荷物の積込み、走行に続いて荷下しのための一時停車 という経過を辿るのが一般であるから、そのような経過を辿った荷下し中の事故は貨物自動車の「運行」と密接な関連があり両者の間には前述の相当因果関係が あるというべく、その間に荷下し作業員の過失が介在したとしても右の因果関係が切断されるとは解し難い。右の「運行によって」とは「運行と被害との間に 相当因果関係のある場合には」と解すべく、これを「運行に際して」と同意義に解すべしとする見解にはたやすく賛同し難い。ところで貨物自動車はその車種から みて荷物の積込み、荷下しを予定しているものであり、その用途からみれば荷物の積込み、走行に続いて荷下しのための一時停車という経過を辿るのが一般であるから 、その様な経過を辿った荷下し中の事故は貨物自動車の「運行」と密接な関連があり両者の間には前述の相当因果関係があるというべく、その間は荷下し作業員の 過失が介在したとしても右の因果関係が切断されるとは解し難い。けだし右にいう「運行」とは定義規定たる自賠法二条二項により自動車を当該装置(走行装置のみならず自動車の車種、用途に 応じて構造上設備されている各装置、たとえばダンプカーのダンプ等はもとより普通貨物自動車の荷台、側板等固有の装置を指称すると解するのが自動車に関連する 特殊の危険から被害者を保護せんとする自賠法の精神に合致するものと解せられ、これを走行装置を指すものとする控訴人の主張は狭きに過ぎ採用しがたい)の 用法に従って用いることをいうが、それは自動車をエンジンにより移動する場合に限らず、停車中の扉の開閉、荷物の積み下ろし等自動車の移動に密接に関連する 場合も含むと解すべきだからである。 (大阪高裁昭和47年5月17日)