加害者の立場の人も自賠責保険を活用しましょう。
加害者の立場になってしまい、自賠責保険を使わずに自費で治療をしたという方を見かけることがあります。
自責の念からということもあるでしょうが、任意保険会社のサポートが受けられず、自分で自賠責保険を請求しなければならないというということが負担になっていることも多いようです。 事故の相手方が自賠責保険に入っている場合は、たとえご自身の過失が大きいものであっても、相手にも過失が1%でもある場合は、ご自身の治療費なども自賠責保険から支払いを受けることが可能です。
被害者の車についている自賠責保険会社に、被害者請求(立場は加害者であっても、この場合被害者請求といいます)の手続きをします。 一定の減額は行われますが、休業損害や慰謝料も支払われますし、後遺症が残れば後遺障害認定を受けることもできます。
免責、因果関係なしとされても、簡単に諦める必要はありません。
自賠責保険を請求したが、「センターラインオーバーで、一方的過失が原因だから支払えない。」「入院中に死亡したのは持病が原因なので支払えない。」「過失が大きいので5割減額して支払う」 などという回答をされる場合があります。こんな時もすぐに諦める必要はありません。証拠不足、説明不足が原因でこうした判断がされている場合は、異議申し立てによって、認定が覆るケースもあるのです。
刑事責任
刑法211条 業務上必要なる注意を怠り、よって人を死傷に致したる者は、5年以下の懲役、もしくは禁錮又は50万円以下の罰金に処す。 重大なる過失により、人を死傷に致したる者、また同じ。
刑法208条の2 アルコール又は薬物の影響により正常な運転が困難な状態で四輪以上の自動車を走行させ、よって、 人を負傷させた者は十年以下の懲役に処し、人を死亡させた者は一年以上の有期懲役に処する。その進行を制御することが困難な高速度で、 又はその進行を制御する技能を有しないで四輪以上の自動車を走行させ、よって人を死傷させた者も、同様とする。
2 人又は車の通行を妨害する目的で、走行中の自動車の直前に進入し、その他通行中の人又は車に著しく接近し、かつ、 重大な交通の危険を生じさせる速度で四輪以上の自動車を運転し、よって人を死傷させた者も、前項と同様とする。 赤色信号又はこれに相当する信号を殊更に無視し、かつ、重大な交通の危険を生じさせる速度で四輪以上の自動車を運転し、よって人を死傷させた者も、同様とする。
飲酒、ひき逃げなどで、加害者の過失が重大な場合は懲役や禁錮の実刑になる可能性が高くなります。その他に、懲役、禁錮の執行猶予、罰金刑、不起訴などがあり、 過失の程度や被害の重大さ、被害者の宥恕などにより処分が検討されます。
検察審査会
交通事故の加害者は、その責任の重さによって刑事処分が決められますが、不起訴処分となることもあります。 不起訴にするかを決めるのは検察官ですが、この決定に対して不服がある場合は、被害者側は検察審査会に審査申立をすることができます。
損害賠償責任
通常は被害者との示談交渉で賠償額が決められます。示談がまとまらない場合は訴訟などによって賠償額が決められることになります。 保険が充分にかけてあれば基本的には保険から賠償額が全部払われます。保険が充分にかけられていなくて賠償金を支払えない場合は、 裁判などの後、強制執行などを受ける可能性があります。
行政処分
交通違反や交通事故で、免許の停止や取り消しの処分を受けることがあります。 前歴のない場合は14点までは免許停止ですが、15点からは取り消しとなります。
死亡事故を起こして、責任が重い場合は20点が加算されます。その他、 怪我の重さと責任の重さによって13~2点が加算されます。単なる物損事故の場合は、交通違反がなければ、事故による点数加算はありません。
加害者の誠意とは~お見舞い
事故で相手に怪我をさせてしまった場合、いったいどれくらいの頻度でお見舞いに行ったらいいのでしょうか? これは、自分の過失の程度、相手の怪我の状況などでケースによって違ってくると思いますが、いくつか参考例をあげておきます。
車同士の事故で、お互いに怪我はなかったが車はどちらも全損となった。うっかり一時停止違反をして事故の原因を作った加害者は保険で損害賠償をしたが、 お菓子と一万円を包んで謝罪にいった。
車で走行中、信号を無視した子供が飛び出してきて事故になった。子供は骨折のため一ヶ月ほど入院するようだ。 保険会社によればこの事故の過失割合は車40:子供60とのこと。子供の親も、飛び出したうちの子が悪かった、 といってくれているが、保険金とは別に3万円をお見舞いとして持参し、入院中も二度ほどお見舞いに行った。
夜間、横断歩道もない場所で急に飛び出してきた人をはねてしまった。周りの人は避けられない事故だったのでは、 という人もいたが、被害者は高齢で一人暮らしの方だったため、退院までの一ヶ月間、 毎日会社が終わった後に病院に見舞いに行って洗濯の世話などをしてあげた。それで被害者の人にも誠意が伝わったようで許してもらえ、 裁判所のほうの処分も特になかった。
不注意から死亡事故の加害者になってしまった。香典として20万円を持参した。
加害者の誠意とは~賠償額
加害者の誠意の見せ方としては、お見舞金を包んだり、病院にお見舞いに行ったり、丁寧な謝罪の言葉をかけたり、といろいろです。 それとは別に、加害者には相手に与えた損害を賠償する責任があります。 この損害賠償額というものは、実はとてもあやふやなもので、計算が難しくなっています。
そんなことは保険会社に任せておけば、計算してくれるのでは?と思う方もいらっしゃると思います。 確かに保険会社の方で計算はしてくれますが、その金額で、はたして被害者は満足してくれるのでしょうか。
保険会社は、基本的に自分の会社の基準で計算した賠償額を提示します。 加害者がどんなに高額の保険に入っていようと、自社の基準でしか保険金は支払われません。
また、事故によって発生した損害ではないかと思えるようなことでも、全てが補償されるわけではありません。 例えば、事故で長い間会社を休んだため退職した場合や、後遺障害が残って婚約予定の恋人とわかれた場合、事故から数週間後に流産した場合など、 事故による損害と認められずに苦しんでいる人はたくさんいます。
何も知らない被害者は、そういうものなんだ、と納得してしまう方もいます。 ケースによっては保険会社の提示額が妥当である場合もありますが、不適当な場合もあります。 被害者と保険会社の主張に食い違いがあり、示談できない場合は、最終的には訴訟を起こして裁判で解決することになります。 訴訟をするということは時間的、精神的に大きな負担となります。
このように、被害者は治療が終わった後でも苦しんでいる方が大勢いるということを忘れないということも、加害者の立場からは大切なことではないでしょうか。
失職の可能性のある場合
職業によっては、刑事処分の内容によって失職する可能性があります。 公務員や裁判官、弁護士、税理士、行政書士などは、禁固以上の刑に処せられた場合は、失職することになります。 医師や看護師が罰金刑以上に処せられた場合は、戒告または業務停止または免許取り消しなどの処分を受ける場合があります。 これらについては、事前に対策を講じる事によって、回避可能な場合もあります。
謝るということ
「一度しか謝りに来ない」 「電話で謝っただけ」 「反省していると思えない」これらは被害者がよく口にする言葉です。 対して、「謝りに行ったが帰れといわれた」 「謝ったが無言のままだった」 「電話でお詫びに伺いたいといったが、来ないでほしいといわれた」という加害者も多いです。
被害者の怪我の程度によっても謝罪の内容は変わってくると思いますので、一概に言えることではございませんが、被害者と加害者の間の感情をもつれさせる大きな原因は、 加害者の「謝り方」にあるのではないかと感じています。
「謝る」というと、多くの人は「申し訳ございませんでした」と被害者に言葉を伝えることをイメージします。その他に「頭を下げる」「お詫びの金品を持参する」などの事 もあるでしょう。実際にも事故直後に被害者宅へ謝罪にいき、深々と頭を下げ、お詫びの言葉を伝えることは、典型的な謝罪のスタイルであるといえるでしょう。 もちろん、これで許してくれる被害者も多いと思います。謝罪の「型」をきちんと守って行うことも大切なことです。
しかし、これだけでは許してくれない被害者もいます。謝罪を受け入れてくれない被害者に対して、真摯に謝ったつもりの加害者は、 「きちんと謝ったのだから、これ以上はどうしようもない」「被害者さんは性格が難しい人なのでは」と自己擁護に回りがちです。 しかしそれは大きな勘違いであることがほとんどだと思います。多くの人は「謝る」という行為を、「言葉」でしか伝えていません。 「謝る」という行為は、言葉でなく、「気持ち」を伝えることであると心得ていただきたいのです。
気持ちを伝える
加害者からは想像もつかないところで被害者は様々な苦労をしています。家族、友人、知人、職場などに迷惑をかけて心苦しい思いをしています。 事故のために大切な予定や、半年前から楽しみにしていた旅行をキャンセルしているかもしれません。仕事をやめなければならなくなった人、結婚の機会を失った人、 趣味ができなくなり、生きがいを失った人など、それぞれに他人にはわからない事情を抱えているのです。愛する人を失ったり、重篤な後遺症が残った場合は、 感情が不安定になります。事故直後や、数ヶ月後に加害者が謝りに来ても、会う気になれないのは当然のことでもあります。大切な娘さんの顔に傷跡が残ってしまった場合、 親御さんが感情的になるのも、理解できることです。
そのような精神状態にある被害者に、一度だけ「謝罪を拒否された」ということを言い訳に、「謝罪」をあきらめてしまってよいのでしょうか。 いいえ、よくありませんね。それは道義にもとる行為といえます。本当の気持ちは一度や二度で伝わるものではありません。 初対面では気持ちが通じないため、すぐに友達になれないのと一緒です。何度か顔を会わせ少しずつ気持ちを伝える必要があります。 一度だけであきらめることなく、被害者の気持ちを推し量り、謝罪の気持ちを伝えてください。 冷たくされたり、拒否されることもあるでしょう。それでも言葉を伝えるのではなく、「気持ち」を伝えるのだということを忘れないでください。 加害者の謝罪の気持ちが伝わるかどうかは、その回数だけで決まるものでもなく、謝罪の時期だけにより決まるものでもありません。被害者の気持ち次第です。 ですから容易なことではありません。それでもそのような状況を生み出してしまったのは他ならぬ加害者自身なのですから、努力する責任があります。
誰のために謝るのか
被害者が謝罪を受け入れることができない時期に、何度も頻繁に謝罪を押し付けてはいけません。 謝罪は被害者の気持ちを少しでも楽にして差し上げるためにするものです。加害者が自分を許してもらって、気持ちを軽くしてもらうためにするものではありません。 ここをはき違えないでください。謝りに行って怒鳴られても、怒鳴った人は直後に後悔しているかもしれません。少し時間をおいて謝罪を重ねることにより、 被害者の気持ちも少しずつ変わってゆくものです。それが数ヶ月後か、一年後か、数年後かはわかりません。ゆっくりと気持ちを伝えてください。 最終的に「許す」という言葉はいただけないかもしれません。「もう忘れたいから、来ないでくれ」が最後にいただく言葉になるかもしれません。 それでも謝罪の気持ちを伝えることは、被害者のわだかまりを小さくします。無意味なことではありません。
無理な要求にこたえるべきか
加害者の立場になると、被害者に負い目を感じます。できることはしてあげたい。可能な限りいうとおりにしたいという気持ちの加害者の方も多いです。 しかし、何から何まで被害者のいうとおりにしなければならないということはありません。「毎日線香をあげにこい」「今すぐに来い」「なんでこの程度のことができない」など、 無理な要求をされた場合に、どうすべきか悩む方もおられます。 線引きは難しいですが、一般常識を踏まえ、無理な要求に対してはお断りする勇気も必要だと思います。
判断の困難な要求をされた場合は、本人では客観的な判断が難しいと思われますので、友人や専門家のアドバイスを受けるのがよいと思います。
死亡事故の謝罪についての事例
知人が夜会社帰りに歩行者の人を車ではねてしまい、被害者の方は亡くなってしまいました。 被害者の方は60歳の男性です。信号のない横断歩道で、雨が降っていてよく見えなかったとのことです。 知人は何度も謝り、裁判所でも土下座をしたそうです。遺族の方の一部は、絶対に知人を許さないといい、顔も見たくないと言われている状況だそうです。 数カ月が過ぎ、家族の方も落ち着いて、謝罪についてはもういいと言っていただけたそうですが、唯一奥様だけはいまだに激しく謝罪を要求しています。 そして今回、一周忌を迎えるにあたり、会って話がしたいと連絡があったそうです。知人は精神的負担から会社を辞めてしまいました。結婚して子供がいますが、 家庭のほうは奥さんの理解で、何とか維持しているようです。一周忌に会って話がしたいという被害者の奥様の要望には答えるべきでしょうか。
謝罪に対する受け止め方は人によって異なりますので、これといった正解はございません。客観的に見て度を超えた謝罪要求であれば拒否するのも選択肢の一つかと思います。 今回、加害者の方は精神的に相当追い詰められ、会社も辞めてしまったとのことですね。土下座もして謝り、奥様以外のご家族はもう謝罪はいいと言ってくださっているとのこと。 それでも一周忌に会いたいという要望は受け入れてもよろしいのではないでしょうか。それまでにどのような形で謝罪をされていたのかは不明ですが、1年という区切りのときに話がしたいという 遺族の要望は、度を超えたものとはいえないと思います。ご遺族にしてみれば、「わずか1年」という感覚なのではないでしょうか。お会いしても許されはしないかもしれませんが、 それでもご遺族の気持ちにこたえていくのが「謝罪」の一つの形ではないかと思います。