労災保険の概要
労災保険 | 窓口 | 労働基準監督署 |
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根拠法 | 労働者災害補償保険法 | |
対象 | 適用事業所に勤務する労働者 | |
給付内容 | 療養補償給付、休業補償給付、障害補償給付、遺族補償給付、葬祭料、傷病補償年金など。 | |
交通事故との関連 | 労働者に過失があるケースでは、損害額から過失割合による減額をした上で労災保険給付金額を控除する傾向がある。障害補償給付と傷病補償年金は逸失利益性は肯定されるべき。 | |
参考判例 | 最判平成元年4月11日 |
労災保険のしくみ
労災保険は、労働者が業務上の災害や通勤途中での災害により怪我や死亡した場合に、被災労働者に対して保険給付を行います。 この保険給付は災害により働けなくなった労働者とその家族の生活を守ることを目的としています。
労災保険の保険者は政府です。労災保険に実際に加入して保険料を納めているのは事業主です。 その事業所で働く人はアルバイトでも労災保険の適用を受けます。
【療養補償給付】
療養補償給付は、労働者が業務上の負傷又は疾病にかかり療養を必要とする場合に行われ、療養の給付と療養の費用の支給があります。 業務災害や通勤災害で負傷または疾病になった場合に、無料で治療を受けたり入院する事ができます。治癒(症状固定)まで給付が行なわれます。 労災の指定医療機関で治療を受けている場合は、療養の給付請求書の様式をその医療機関へ、 そうでない場合は管轄の労働基準監督署へ提出します。様式は労働基準監督署でもらう事ができます。
【休業補償給付】
業務上の負傷又は疾病にかかりその療養のため働くことができず、賃金を受けない場合は、 その4日目から賃金を受けない期間1日について、給付基礎日額の60%相当額の休業補償給付と、20%相当額の休業特別支給金が支給されます。 業務災害や通勤災害による負傷または疾病で労働ができずに、賃金を受け取る事ができない場合に、4日目から給付がされます。 その人の賃金に応じた金額が支給されますので、過去3か月分の賃金を平均した額が給付基礎日額とされます。 休業補償給付の申請は、様式に必要事項を記入してから、労働基準監督署へ書類を提出します。 2回目以降の請求である場合は、離職後であれば事業主の証明は必要ありません。
【障害補償給付】
業務災害や通勤災害による負傷又は疾病が治ゆしたときに、身体に一定の障害が残った場合には、障害補償給付が支給されます。
障害等級第1級から第7級までに該当する場合は障害年金、障害特別支給金、障害特別年金が支給され、
第8級から第14級の障害の場合は障害一時金、障害特別支給金、障害特別一時金が支給されます。
障害補償給付の申請は、様式に必要事項を記入してから、労働基準監督署へ書類を提出します。
【傷病補償年金】
業務や通勤による負傷や疾病の療養を開始してから1年6ヶ月を経過した時点で、その傷病による障害の程度が厚生労働省令で定める
傷病等級(第1級から第3級)に該当する場合に傷病補償年金が支給されます。
傷病年金が支給される場合には、療養給付は引き続き支給されますが、休業給付は支給されなくなります。
【遺族補償給付】
業務上で死亡した場合は、遺族補償給付が支給されます。 遺族補償年金は労働者の死亡当時の生計維持関係や遺族の年齢などの条件があり、条件に該当せず、年金が支給されない場合は一時金が支給されます。
『遺族補償年金』
業務または通勤災害により労働者が死亡した時は、遺族に対して遺族補償給付が支給されます。
次の条件にあてはまる遺族がいる場合は遺族補償年金が支給され、あてはまる者がいない場合は遺族補償一時金が支給されます。
遺族補償年金の受給資格者となる順位→労働者の死亡当時その者の収入によって生計を維持していた配偶者(共稼ぎも含む)・子・父母・祖父母・兄弟姉妹(妻以外の遺族については、
死亡の当時に一定の年齢あるいは障害の状態にあることが必要。)
① 妻又は60歳以上か一定の障害の夫
② 18歳に達する日以後の最初の3月31日までの間にあるか一定の障害の子
③ 60歳以上か一定の障害の父母
④ 18歳に達する日以後の最初の3月31日までの間にあるか一定の障害の孫
⑤ 60歳以上か一定の障害の祖父母
⑥ 18歳に達する日以後の最初の3月31日までの間にあるか60歳以上又は一定の障害の兄弟姉妹
⑦ 55歳以上60歳未満の夫
⑧ 55歳以上60歳未満の父母
⑨ 55歳以上60歳未満の祖父母
⑩ 55歳以上60歳未満の兄弟姉妹
『遺族補償一時金』
遺族補償一時金は、遺族補償年金を受ける遺族がいない場合などに支給されます。
受給権者は、次のうち最先順位にある者(②と③については、子・父母・孫・祖父母の順序になります。)で、同順位者が2人以上ある場合は、
全員がそれぞれ受給権者となります。なお、子・父母・孫・祖父母・兄弟姉妹の身分は、労働者の死亡の当時の身分です。
① 配偶者
② 労働者の死亡の当時その収入によって生計を維持していた子・父母・孫・祖父母
③ その他の子・父母・孫・祖父母
④ 兄弟姉妹遺族補償一時金として給付基礎日額の1000日分、遺族特別支給金が300万円、遺族特別一時金として算定基礎日額の1000日分が支給されます。
【葬祭料】
葬祭を主催する者(通常は遺族)に支給されます。金額は315000円に給付基礎日額の30日分を加えた額です。 ただしこの額が給付基礎日額の60日分に満たない場合は、60日分が支給額となります。
【介護補償給付】
障害補償年金または傷病補償年金の第1級の方全てと第2級の精神神経・胸腹部臓器の障害を有している方が現に介護を受けている場合、
介護補償給付が支給されます。
介護補償給付は、障害の状態に応じ、次の表のように常時介護を要する状態と随時介護を要する状態に区分されます。
現に民間の有料介護サービスを受けていたり、親族、友人、知人などにより介護を受けていることが必要です。また病院や身体障害者療護施設、
老人保健施設、特別養護老人ホームなどに入所していないことが必要です。
『常時介護の場合の一ヶ月あたりの支給額』
① 親族又は友人・知人の介護を受けていない場合には、介護の費用として支出した金額(上限104590円)が支給されます。
② 親族又は友人・知人の介護を受けているとともに、
イ 介護の費用を支出していない場合には、一律定額として56710円が支給されます。
ロ 介護の費用を支出しており、その額が56710円を下回る場合には、一律定額として56710円が支給されます。
ハ 介護の費用を支出しており、その額が56710円を上回る場合には、その額(上限104590円)が支給されます。
『随時介護の場合の一ヶ月あたりの支給額』
① 親族又は友人・知人の介護を受けていない場合には、
介護の費用として支出した額(上限52300円)が支給されます。
② 親族又は友人・知人の介護を受けているとともに、
イ 介護の費用を支出していない場合は、一律定額として28360円が支給されます。
ロ 介護の費用を支出しており、その額が28360円を下回る場合には、一律定額として28360円が支給されます。
ハ 介護の費用を支出しており、その額が28360円を上回る場合には、その額(上限52300円)が支給されます。
これらは業務災害の給付ですが、通勤災害の場合はそれぞれ療養給付、休業給付、障害給付等と呼ばれます。
【労働福祉事業】
休業特別支給金、障害特別支給金、遺族特別支給金、傷病特別支給金、特別給与(ボーナス等)を算定の基礎とする特別支給金、 などの他、労災就学援護費、労災就労保育援護費等があります。
表は厚生労働省発行の『障害(補償)給付の請求手続き』より転載
労災と自賠責保険の関係
自賠責保険は第三者の損害賠償義務を担保するものですので、自賠責保険会社に対して損害賠償請求権を持つ被害者が労災保険から給付を 受けた場合には、その被害者の持つ自賠責保険会社への損害賠償請求権は、労災保険の保険者である政府が取得するとされています。 簡単に言うと、労災保険で休業補償給付を受けた場合は、その受けた金額分については、政府が自賠責保険に請求する権利を取得するので、 被害者は請求できなくなる、つまり、労災保険と自賠責保険で同じ費目を二重取りすることはできないということです。
労災が適用になる場合に労災保険と自賠責保険のどちらを先に請求すればよいか迷うことがあります。
役所間の取り決めで、原則的には自賠責保険の支払を先に行うこととされていますが、どちらを先に請求するかで有利な点が違ってくる場合があります。
これはケースバイケースで判断すべきことですが、先に自賠責保険を使ったほうが一般的には有利なようです。
それは自賠責保険には仮渡金や内払い金などの制度があり、これを利用することによって支払が速やかに行われる、
また、自賠責保険の損害の填補範囲は労災保険よりも広く、慰謝料も支払われるからです。
被害者の過失が大きいときや加害者が任意保険に入っていない時などは、自賠責保険より先に労災を使用したほうが有利なことがあります。
労災保険の適用事業場
労災保険は一部の例外を除き、労働者(正社員、日雇い、パートなどにかかわらず)を一人でも雇っていれば、業種、規模に関係なくすべて適用事業となります。
ですから事業主が、「うちは労災に入ってないから」とか「パートさんは労災は使えないから健康保険をつかって」などというのは間違っています。
解決が困難な場合は最寄の労働基準監督署に相談できます。
メリット制
メリット制とは、事業主の保険料負担を公平にするという意味から、一定以上の規模の事業場については、個々の災害率の高低に応じて保険料を決めるという制度です。 業務災害にのみ適用され、通勤災害には適用されません。事業場の規模は、100人以上の労働者を使用する事業か、または、20人以上100人未満の労働者を使用する事業であって、 当該労働者数に業務災害にかかる保険料率を乗じた数値が0.4以上である事業とされています。これらに該当しない場合は、メリット制は適用されていませんので、労災を使用したからといって 会社の納める保険料が上がるということはありません。
厚生労働省「労災保険給付の概要」より抜粋(平成16年)
通勤災害について
通勤災害とは、労働者が通勤により被った負傷、疾病、障害又は死亡をいいます。
この場合の「通勤」とは、就業に関し、住居と就業の場所との間を、合理的な経路及び方法により往復することをいい、
業務の性質を有するものを除くものとされていますが、往復の経路を逸脱し、又は往復を中断した場合には、逸脱又は中断の間及びその後の往復は「通勤」とは
なりません。ただし、逸脱又は中断が日常生活上必要な行為であって、厚生労働省令で定めるやむを得ない事由により行うための最小限度のものである場合は、
逸脱又は中断の間を除き「通勤」となります。
このように、通勤災害とされるためには、その前提として、労働者の住居と就業の場所との間の往復行為が労災保険法における通勤の要件を満たしている必要があります。
そこで、労災保険法における通勤の要件をまとめると次のようになります。
「就業に関し」とは
通勤とされるためには、労働者の住居と就業の場所との間の往復行為が業務と密接な関連をもって行われることが必要です。 したがって、被災当日に就業することとなっていたこと、又は現実に就業していたことが必要です。この場合、遅刻やラッシュを避けるための早出など、 通常の出勤時刻と時間的にある程度の前後があっても就業との関連は認められます。
「住居」とは
労働者が居住していて日常生活の用に供している家屋等の場所で、本人の就業のための拠点となるところをいいます。 したがって、就業の必要上、労働者が家族の住む場所とは別に就業の場所の近くにアパートを借り、そこから通勤している場合には、そこが住居となります。 また、通常は家族のいる場所から通勤しており、天災や交通ストライキ等の事情のため、やむを得ず会社近くのホテル等に泊まる場合などは、 当該ホテルが住居となります。
「就業の場所」とは
業務を開始し、又は終了する場所をいいます。一般的には、会社や工場等の本来の業務を行う場所をいいますが、外勤業務に従事する労働者で、特定区域を 担当し、区域内にある数か所の用務先を受け持って自宅との間を往復している場合には、自宅を出てから最初の用務先が業務開始の場所となり、最後の用務先が 業務終了の場所となります。
「合理的な経路及び方法」とは
住居と就業の場所との間を往復する場合に、一般に労働者が用いるものと認められる経路及び方法をいいます。 合理的な経路については、通勤のために通常利用する経路であれば、複数あったとしてもそれらの経路はいずれも合理的な経路となります。 また、当日の交通事情により迂回してとる経路、マイカー通勤者が貸切りの車庫を経由して通る経路など、通勤のためにやむを得ずとる経路も合理的な経路となります。 しかし、特段の合理的な理由もなく、著しく遠回りとなる経路をとる場合などは、合理的な経路とはなりません。
次に、合理的な方法については、鉄道、バス等の公共交通機関を利用する場合、自動車、自転車等を本来の用法に従って使用する場合、徒歩の場合等、 通常用いられる交通方法を平常用いているかどうかにかかわらず、一般的に合理的な方法となります。
「業務の性質を有するもの」とは
以上説明したことの要件をみたす往復行為であっても、その行為が業務の性質を有するものである場合には、通勤となりません。 具体的には、事業主の提供する専用交通機関を利用する出退勤や緊急用務のため休日に呼出しを受けて緊急出勤する場合などが該当し、 これらの行為による災害は業務災害となります。
「往復の経路を逸脱し、又は中断した場合」とは
逸脱とは、通勤の途中で就業や通勤と関係のない目的で合理的な経路をそれることをいい、中断とは、通勤の経路上で通勤と関係のない 行為を行うことをいいます。具体的には、通勤の途中で映画館に入る場合、バーで飲酒する場合などをいいます。しかし、通勤の途中で経路近くの公衆便所を使用する場合や 経路上の店でタバコやジュースを購入する場合などのささいな行為を行う場合には、逸脱、中断とはなりません。 通勤の途中で逸脱又は中断があると、その後は原則として通勤とはなりませんが、これについては法律で例外が設けられており、日常生活上必要な行為であって、厚生労働省令で 定めるものをやむを得ない事由により最小限度の範囲で行う場合には、逸脱又は中断の間を除き、合理的な経路に復した後は再び通勤となります。
なお、厚生労働省令で定める逸脱、中断の例外となる行為は以下のとおりです。
- 1 日用品の購入その他これに準ずる行為
- 2 職業能力開発促進法第15条の6第3項に規定する公共職業能力開発施設において行われる職業訓練、学校教育法第1条に規定する学校において行われる 教育その他これらに準ずる教育訓練であって職業能力の開発向上に資するものを受ける行為
- 3 選挙権の行使その他これに準ずる行為病院又は診療所において診察又は治療を受けることその他これに準ずる行為
業務災害について
業務災害とは、労働者の業務上の負傷、疾病、障害又は死亡をいいます。 業務災害とは業務が原因となった災害ということであり、業務と傷病等との間に一定の因果関係があることをいいます。 この業務災害に対する保険給付は、労働者が労災保険が適用される事業場に雇われて働いていることが原因となって発生した 災害に対して行われるものですから、労働者が労働関係のもとにあった場合に起きた災害でなければなりません。これらをまとめると、次のとおりとなります。
事業主の支配・管理下で業務に従事している場合
これは、所定労働時間内や残業時間内に事業場内において業務に従事している場合が該当します。この場合の災害は、被災労働者の業務としての行為や事業場の 施設・設備の管理状況などが原因となって発生するものと考えられるので、特段の事情がない限り、 業務災害と認められます。なお、次の場合には業務災害と認められません。
- 1 労働者が就業中に私用を行い、又は業務を逸脱する恣意的行為をしていて、それらが原因となって災害を被った場合。
- 2 労働者が故意に災害を発生させた場合。
- 3 労働者が個人的な恨みなどにより、第三者から暴行を受けて被災した場合。
- 4 地震、台風など天災地変によって被災した場合。(ただし、事業場の立地条件や作業条件・作業環境などにより、天災地変に際して災害を被りやすい業務の事情があるときは、 業務災害と認められます。)
事業主の支配・管理下にあるが業務に従事していない場合
これは、昼休みや就業時間前後に事業場施設内にいる場合が該当します。出社して事業場施設内にいる限り、労働契約に基づき事業主の支配管理下にあると認められますが、
休憩時間や就業前後は実際に業務をしているわけではないので、行為そのものは私的行為です。この場合、私的な行為によって発生した災害は業務災害とは認められませんが、
事業場の施設・設備や管理状況などがもとで発生した災害は業務災害となります。
なお、用便等の生理的行為などについては、事業主の支配下にあることに伴う行為として業務に附随する行為として取り扱われますので、この場合には就業中の災害に準じて、
業務災害として認められない場合を除いて、施設の管理状況等に起因して災害が発生したかというものと関係なく業務災害となります。
支配下にあるが、管理下を離れて業務に従事している場合
これは、出張や社用での外出など事業場施設外で業務に従事している場合が該当し、事業主の管理下を離れてはいるものの、 労働契約に基づき事業主の命令を受けて仕事をしているわけですから事業主の支配下にあり、仕事の場所はどこであっても、積極的な私的行為を行うなど特段の事情がない限り 、一般的に業務に従事していることから、業務災害について特に否定すべき事情がない限り、一般的には業務災害と認められます。