日本の法律で損害賠償請求を行う
外国人が日本で事故に遭い、後遺障害が残ったり死亡した場合の慰謝料は、どのように決められるのでしょうか。
答えは『b』、三分の一となる可能性が高い。
外国人が日本国内で事故に遭った場合は、日本の法律に基づいて損害賠償請求が行われますが、 日本で定められている損害賠償額の算定基準は、日本国内における物価や平均賃金を前提に定められています。 そうすると、経済的事情の異なる国の外国人について、被害者の母国の方が、日本よりも所得の水準が著しく低い場合は、日本の基準で損害賠償額を算定した場合は、 被害者が今後、日本ではなく、母国で生活をするという前提では、過分な利益を与えることとなり、現状回復を目的とし、被害者に利得を与えるべきではないという考え方にそぐわないことになるため、 特別の配慮が必要になります。
母国に帰る人なのか、日本に生活基盤を持つ人なのかで異なる
国による違いのほか、在留資格による違いも慰謝料の計算に関係してきます。 日本に入国している外国人は何らかの形で在留資格を受けていなければなりません。 例えば就労が可能な、医療、研究、教育、興行や、就労が認められない観光などの短期滞在、留学や研修、 永住者、日本人の配偶者などです。これら在留資格やその他の事情によって、今後日本で就労し、生活していく可能性があるのか、 帰国することになるのか判断して、日本人と同様の損害を認めるのか、母国の経済事情を勘案した金額を認めるのか決めていくことになります。
長期間日本に留まると考えられる者
外国人の在留資格には、観光など短期間の滞在しかできないものや、永住者など長期間の滞在ができるものがあり、その違いによって取り扱いが異なってきます。 永住者、日本人の配偶者、永住者の配偶者、定住者等は、活動に制限もなく、長期間日本に滞在する可能性が高いと認められやすいでしょう。 その他の在留資格であっても、長期間の滞在が見込まれる者は、基本的に日本人と同様に損賠賠償額が算定されますが、帰国の可能性などがあれば考慮されることとなります。
死亡事故の場合
日本に長期間滞在が見込まれる者の場合、後遺障害についての損害は、日本人と同様の方法で賠償額が計算されることに問題はありませんが、死亡の場合はどうでしょうか。 もしも被害者の相続人が日本に比べて生活水準が低い国に住んでいた場合、慰謝料は相続人の国の経済事情に合わせた金額で算定するということも考えられます。 しかし、被害者が亡くならなければ、推定相続人に対して、日本から仕送りをするなどのことも充分に考えられることもありますし、事故以外の理由で相続が開始した場合も、被害者が日本で蓄えた財産が相続されることになるわけですから、そのような扱いは妥当ではないでしょう。 仮に相続人の国の経済事情に合わせるとしても、近親者固有の慰謝料分のみにとどめるべきで、被害者本人分の慰謝料は日本人と同様の算定によるべきであると思います。
長期間の滞在が認められない者、就労可能な在留資格を持たない者
在留資格その他の事情から、短期間のうちに帰国が予定されている者や不法残留者の場合は、その者の母国の経済事情が考慮されます。 仮に日本で短期的に平均賃金程度の収入を得ていたとしても、そのことのみによってでは、将来にわたって同様の収入を得られる蓋然性は認められないとされる場合が多いでしょう。 日本と比較して生活水準が低い国の者の場合は、逸失利益算定のための基礎収入や、慰謝料については、低めに算定される傾向にあります。
【死亡慰謝料の例】
43歳のスリランカ人男性の死亡慰謝料が500万円が相当であるとされた(東京高裁平成13年1月25日判決)