実通院日数・重症度と慰謝料

交通事故オンライン損害賠償編

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伊佐行政書士事務所
  1. たくさん通院しても慰謝料が増えるとは限らない
  2. 通院期間との関係
  3. 怪我の程度との関係
  4. 慰謝料表の期間を超える場合の計算方法

たくさん通院しても慰謝料が増えるとは限らない

以前ある掲示板で、対人賠償保険について『通院が多ければ多いほど慰謝料が高くなる。だから毎日通院するのが一番良い』というような内容の記述を見かけました。これは大きな間違いです。

通院の必要がないのに慰謝料目当てで通院を続ければ、それは保険金詐欺ともいえる行為になります。 医師はその経験から、患者の嘘を見抜く能力を持っています。医師に疑念を持たれていては後遺障害診断書の内容に悪影響を及ぼす可能性があります。 怪我の程度や内容に照らし、通院状況が異常であれば、保険会社も当然警戒し、本当に必要な治療なのか、 濃厚診療、過剰診療ではないのかなどについて調査をするでしょう。 不必要な治療を継続すれば、最終的には裁判となり、治療の必要性を否定される可能性もあります。不相当な治療は厳に慎むべきです。

「正直が第一」です。ただし現実には「正直者が損をする」状況もたくさん存在しています。 「正直」+「正しい知識」を身につけ、適正な損害賠償を受ける努力をしてください。

実通院日数と慰謝料算定の方法は無関係ではありませんが、任意保険会社や弁護士会の基準では、 単純に実通院日数が増えれば正比例して慰謝料が増えるというような構造にはなっていません。 例えばある期間、週に5回通院した人と、3回しか通院しなかった人では、必ずしも週に5回通院した人の慰謝料が多くなるというようなことはないのです。 自賠責保険の計算方法でも、実通院日数がある程度の頻度であれば、それ以上通院しても計算は変わらないようになっています。

逆に、骨折など怪我の内容によっては、重傷だったわりに通院日数が非常に少ない場合があります。 骨折は固定して骨癒合を待つだけで、特に積極的な治療方法をとらないことがあるからです。 こういう場合、『通院日数が少ないので』と慰謝料の提示額も低くなりがちですが、慰謝料は実通院日数だけで決められるものではありませんので、 その間の支障なども考え、妥当な額を請求していくべきです。 こういったケースの時に、少ない実通院日数を理由に極端に低額の慰謝料を提示してくる保険会社にも問題はあると思います。 そうした体験をした被害者の情報がネットで拡散し「通院しないと慰謝料がもらえない」という認識が広がっていくのではないでしょうか。

通院期間との関係

通院期間が長くなれば、一般に慰謝料の金額は増えることになります。もちろん認められるのは、必要とされる治療のみに限られます。 治療効果がないにもかかわらず、延々と治療を継続することは許されないことです。 任意保険会社や弁護士会の基準では、治療期間が長くなるほど月ごとの慰謝料の金額も逓減していくようになっています。 これは治療が進むにつれ苦痛も柔らいでいくのが一般であることなどが主な理由と思われますが、 慰謝料目当ての、本来は不要な治療期間の延長を抑止する意味もあるのかもしれません。

忙しくて通院できない人は不利になる

残念なことですが、中には慰謝料目当てで通院を長くしようなどと企む人もいることでしょう。 しかしそのようなことを目論むのはごく限られた人間で、実際は逆に、通院時間の確保による仕事への支障のため、充分な治療をすることなく通院を早い段階で中止し、 そのために適正な賠償を受けられないという理不尽な事になっている人が大勢いると思われます。休めば解雇されるというような状況であっても、通院をしないことは 治療が不要だったとみられる傾向が強いです。 不正を許さないことも大切ですが、仕事に一生懸命な正直な人が、適正な賠償を受けられやすくなるような、そんな基準ができることが望まれます。

怪我の程度との関係

傷害慰謝料は、主に入通院期間や実通院日数の長短によって基準化されていますが、それらの条件だけでは基準としての合理性に欠けますので、 それを補うために、傷害の部位や程度により増減して計算されることとなっています。

赤い本では通常程度の傷害の場合は別表Ⅰによることとされていますが、重症度によって20~30%増額するなどして調整がなされます。 例えば生命に別状のない前腕骨折と、生死をさまようような頭部外傷などで、同じ入通院状況で治癒した場合に、慰謝料が同じというのは 苦痛の大きさを考えれば合理的とはいえないでしょうし、左腕を骨折した人と、両腕を骨折した人でも生活の不便さは大きく異なると考えるのが 合理的だからです。具体的に何%増額して算定するべきかについては、重症度によりある程度の目安はありますが、苦痛の大きさや不自由の程度などを勘案し、 ケースバイケースで考えていくことになります。

重症度の判断が難しいケース

目に見えにくい神経症状がある場合は、重症度の判断が難しい場合があります。外傷自体は軽症と考えられる捻挫や打撲しかないにもかかわらず、 強い頭痛などに悩まされる低髄液圧症候群や、打撲や骨折後に強い痛みなどを訴えるRSD、四肢に麻痺が残ることがある中心性脊髄損傷などは、 診断が難しく、他覚的所見に乏しい面があるため、被害者の自覚症状が他人から見れば 「大げさなのではないか」、「気のせいではないのか」などと疑問がもたれてしまうケースがあるのです。そうした神経症状のために生活や仕事に著しい支障がある状態で あったとしても、その原因が医学的に証明できない場合は、軽症として評価せざるを得ない場合もあるでしょう。こうしたケースでは慰謝料だけではなく、 後遺障害に対する損害も適切な評価がされず、被害者に酷な結果となってしまうことが多くあります。適切な後遺障害認定を受けられるように、早目に 専門家に相談しましょう。

重症度の例

  • 【重症の例】
    硬膜外血腫、脳挫傷、脊髄損傷、内臓破裂など
  • 【中程度の例】
    骨折、脱臼など
  • 【軽症の例】
    捻挫、打撲、挫創など

低髄液圧症候群の重症度

低髄液圧症候群の被害者は、日常生活が成り立たないほど症状が重い人も多く、 通院慰謝料の計算上、軽傷例として一般的なむち打ち症と同列に考えるのは酷といえるケースがあります。

しかし低髄液圧症候群は、現在のところ医学界でも診断基準等が統一されておらず、法的には必ずしもそうとは言い切れない病態までもが 安易に低髄液圧症候群という診断名がつけられているという現実があります。 したがって、その被害者の病態について、一部の医師が低髄液圧症候群という診断をしただけであって、裁判所が認めたのでない場合は、 傷害慰謝料請求の基礎とする表は、現在のところ別表Ⅱのほうが妥当性が高いといえます。 このような場合は後遺障害等級も14級または非該当となることがほとんどでしょう。

裁判所で低髄液圧症候群の発症が認定されるケースが多くなれば、後遺障害等級も12級とされるケースが出てくる可能性があります。 そうした場合には、傷害慰謝料の計算は別表Ⅰを使用すべきでしょう。 ですが現状では、ほとんどのケースで因果関係を否定されたり、原因のあきらかでない14級の神経症状とされたりしているようです。

慰謝料表の期間を超える場合の計算方法

入通院慰謝料表に表示されている入通院期間は15ヶ月までです。それを超える期間の入通院があった場合は、15ヶ月のところの金額と 14ヶ月のところの金額の差を、1ヶ月毎に加算して算出する方法が取られています。例えば赤い本の別表Ⅰの場合、 17ヶ月通院した場合は、164万+(164万-162万)×2=168万円ということになります。

通院開始当初は1ヶ月で28万円とされていますが、通院開始から14ヶ月以降は、月に2万円しか加算されません。 これは通院開始後、傷害は時間の経過とともに治癒に向かうため、肉体的な苦痛の程度は低減していくのが通常であることや、 入通院に伴う身体的な時間の拘束に対する苦痛の程度も漸減していくと考えられていることから、このような方法が取り入れられているのです。

入院が長期化した場合の漸減率に対する疑問

赤い本別表第Ⅰの場合、最初の1ヶ月の慰謝料額は53万円であるのに対し、14ヶ月目以降は1ヶ月に6万円となっています。 前述のとおり、傷害は時間の経過とともに治癒に向かい、苦痛の程度は軽減していくと考えることもできますが、 逆に長期間経過するほど、度合いが増すと考えられる苦痛もあるのではないでしょうか。

事故で1年間入院した場合と、3年間入院した場合を考えてみましょう。この場合赤い本の基準通りに計算すると、最初の1年目は321万円、2年目の1年間は73万円、 3年目の1年間は72万円という計算になります。

1年を失うのと3年を失うのとで、1年あたりの苦痛の大きさは、3年目の方が小さくなると言い切れるのでしょうか。 社会生活から長期間離れていれば、それだけ復帰は難しくなります。元の状態に戻すには、それだけ本人の特別な努力が要求されます。 1年の空白は努力で取り戻せても、3年の空白は努力だけでは取り戻すことはできないかもしれません。 被害者は入院中も社会復帰のことを考え、不安を募らせます。時には入院中に夢や希望を失うこともあるでしょう。 短期間であれば耐えられることも、先の見えない長期にわたる入院生活は、時とともに苦痛の度合いが増していくと考えられるのではないでしょうか。 そうすると入院慰謝料については、期間に対する漸減率をもう少し低く調整し、長期間の入院を余儀なくされる被害者の補償を手厚くしても良いのではないかと思うのです。

3年以上など長期間にわたる入院を余儀なくされている被害者の場合は、症状固定後も入院を続けているケースが多くなります。 症状固定後は後遺障害慰謝料の問題となりますが、現状ではその後の入院を強いられる期間によって後遺障害慰謝料の金額が大きく増減されるようなことはありません。 漸減率を低くした場合は、入院期間は同じであるのに症状固定の時期が異なるというだけで、その分慰謝料の金額の差がより大きくなってしまうという問題も生じます。 こうした不公平をなくすための配慮も必要と思われます。