柔道整復師(接骨院・整骨院)の行う施術の取り扱い
一般の損害賠償請求では、治療内容によって慰謝料の金額に差が出ることはまずないと思われますが、治療の相当性などに疑義があり、 治療費との相当因果関係が否定されれば、それに連動して通院慰謝料も減額されることとなるでしょう。
自賠責保険では「慰謝料の対象となる日数は、被害者の傷害の態様、実治療日数その他を勘案して、治療期間の範囲内とする」とされています。 その上で自賠責保険では、医師および柔道整復師が行う治療・施術の場合は、治療期間の範囲内で、実治療日数の二倍が慰謝料算定の基になる日数とされており、 鍼灸師、あん摩マッサージ指圧師の行う施術については、実治療日数が慰謝料算定の基になる日数とされているのとは、異なる扱いがされています。
なぜ差があるのか
医師及び柔道整復師の場合と、鍼灸、あん摩マッサージ指圧師の場合で、慰謝料の算定方法は、このように差が設けられています。 その理由は明確ではありませんが、現状、西洋医学による治療行為が、最も科学的に説明可能な現代医学の方法であり、治療効果や方法についても、 より客観的な説明が可能と考えられていることから、保険金の支払い基準という性質上、 西洋医学による治療を中心的に考えなければならないことなどがあると思われます。 これに対して東洋医学の場合は、 実際に治療効果があり、時には西洋医学をもしのぐ治療実績があるということも周知の事実といえましょうが、 治療効果が客観的に説明しにくい、施術が内容によっては大変心地よいため、治療目的と単なる疲労回復目的との境界があいまいで、 支払い基準上何らかの制限を設けないと、過剰な通院を招きかねないという懸念もあるように思います。
裁判例に見る鍼灸師、あん摩マッサージ指圧師の行う施術に対する慰謝料
裁判上では東洋医学の施術費自体の因果関係が争われることが多いです。因果関係は、施術について医師の指示または同意があるか、施術により症状は改善したか、施術内容や 期間について相当性があるかという点が問題になります。
それでは相当因果関係が認められた場合の東洋医学による施術の通院慰謝料は、西洋医学の通院慰謝料と差があるのでしょうか。いくつかの判例を検討してみましたが、 鍼灸院等と並行して、整形外科に通院していたもの、通院回数が少なかったもの、大幅な素因減額がされている例などが多く、純粋に東洋医学による通院のみを通院慰謝料表に あてはめて算定しているとみられる例は見つけられませんでした。
しかし、そうした事例の慰謝料全体の金額から受ける印象としては、東洋医学による治療であるから、ということのみをもって、 通常の慰謝料計算より大きく減額されるということは無いように感じられました。
大切なのは施術の相当性
治療内容が妥当で、相当な効果も得られたのであれば、慰謝料算定にあたって、西洋医学か東洋医学かという区分によって差を設けることは、合理性がないと思います。 もしも自賠責保険の取り扱いと同様に、東洋医学の慰謝料を低額にするという基準が一般化すれば、それだけ被害者の治療方法の選択権が狭められることとなるでしょう (実際に、西洋医学による治療では治らなかったが、鍼で著しく改善したという例もあります)。 西洋医学であっても、 効果のあるなしにかかわらず、漫然と同じ治療を続けているとしか思えないようなケースを目にすることもあります。 慰謝料に差をつけるのであれば、西洋医学か東洋医学かではなく、治療の相当性に着目した判断が必要であると思います。
慰謝料に差異を設けるべきではないと思いますが、原則的には医師による診断は欠かせないものと考えられますので、 東洋医学による施術のみを長期間続けることは問題があります。東洋医学による施術を希望する場合でも、 被害者側は、医師の診察を並行して受けるなどの配慮が必要でしょう。