自転車事故の特徴
「車を運転していたわけではないのだから、自転車でちょっとぶつけて怪我させたからって、慰謝料を払わないといけないの?」という ご質問を何度か受けたことがあります。とっさにそう考えてしまうお気持ちは理解できますが、自転車が加害者となった場合であっても、慰謝料などの 損害賠償責任は負うことになります。
自転車は便利で身近な乗り物です。幼児から高齢者まで、免許を受けることもなく、誰もが運転することができます。自動車に比べ加害者となる危険性は低いですが、 思わぬところで交通事故の加害者となる場合もあります。歩道上や店舗の出入り口などで、自転車が歩行者に接触する事故は多いです。特に歩行者が高齢者である場合、バランスを崩して 尻餅をついたときに手首などを骨折した、という事故をよく耳にします。加害者となるのが幼児、小学生、中学生、高校生などが多いというのも特徴的です。 自転車同士、あるいは自転車と歩行者の間の交通事故により、どちらかが負傷または死亡した場合は、次のような問題があります。
自転車事故に多い問題点
- 第一に双方が保険に入っていないケースが多く、慰謝料などの賠償金を支払う資力がないという事があります。賠償義務者より任意に賠償を受けられない場合は、 強制執行などの手段まで考えなくてはなりません。
- 第二に、当事者が双方とも損害賠償に関する知識がない場合が多く、どのように話し合って解決すればいいか、皆目見当もつかないという事が多いということがあります。
- 第三に、後遺症が残った場合に、自賠責の等級認定を受けることができないため、賠償額の算定が困難ということです。
- その他にも、未成年者が加害者となるケースが多いことから、責任能力が問題になることや、事例の集積が少なく、過失割合も基準化がされていないために、判断が難しいということがあります。
未成年者が加害者となったとき
未成年者の監督義務者(両親など)・・・(民法714条)
未成年者の責任能力は、10~12歳程度で備わるといわれていますが、年齢だけで判断されるものではありません。未成年者の責任能力が否定される場合は、両親は監督義務者責任を負うこととなりますが、未成年者の責任能力が肯定される場合は、未成年者自身が責任を負うこととなり、監督義務者責任は問えなくなります。
中高生などの未成年者が不法行為を行った場合は、両親の監督義務者責任を問うことは困難ですが、両親が監護義務(民法820条)を懈怠していた場合は、両親に対して直接不法行為責任を問う余地があります。
実際に、自転車の高校生が加害者になったが、両親の責任を問うことができずに、被害者が泣き寝入りとなるケースもあるのです。
自転車が加害者となったときの慰謝料計算
自転車が加害者となった事故でも、損害賠償額の計算方法については、基本的には自動車の事故と変わりはないと考えてよいでしょう。 自転車用の慰謝料表や、金額を補正する決まりは特にありません。 過失相殺率については、自動車と自転車では運行上の責任の重さに違いがあることからも、同列に考えることはできないと思われますが、 治療費や休業損害、逸失利益などの計算方法はなんら変わるところはありません。 慰謝料については、加害者側の事情など一切の事情を斟酌して決められるべきことですので、 自動車の場合と比較して基準が異なるという事が考えられなくもありませんが、いくつかの裁判例を検討しても、 自転車が加害者であるということをもってのみ慰謝料の金額が低くなるなどのことはないようです。 そうすると、自転車や歩行者が加害者となった場合も、自動車事故の基準を参考に慰謝料を計算することで、概ね妥当な金額が導き出されるものと考えられます。 → 慰謝料の計算方法
軽傷の場合の慰謝料の例
自転車事故では打撲などの軽傷事故も多く、深刻な紛争とはならずに解決するケースも多くあります。ここでは通院が1~2回の慰謝料の事例をご紹介します。
- 腰部打撲で事故当日のみ通院・・・5000円
- 手首打撲で事故当日と、4日後の計2回通院・・・1万円
- 腰部打撲で事故当日と、5日後の計2回通院・・・2万円
- 肘部打撲で事故当日と、7日後の計2回通院・・・2万円
難しい損害の証明
自転車事故で難しいのは計算方法そのものではなく、計算の基礎とすべき根拠がはっきりしないケースが多いということです。保険会社などの専門知識を持った人が 関与していないため、治療経過や後遺症の程度が明らかにできない場合が多いのがその原因です。
自転車事故に対応する保険には、自転車総合保険、個人賠償責任保険などがあります。 未成年者が高齢者に衝突して怪我をさせる事故が増えています。ぜひ加入しておきましょう。