何が脅迫となるか
被害者に正当な慰謝料請求権がある場合であっても、様々な事情から加害者が支払いに応じない場合があります。 そんな時被害者としては、自己の主張を受け入れない加害者の態度に不満を感じ、加害者には誠意がない、常識がない等といった、負の感情を強く抱くようになります。 最初は冷静な話し合いが保たれていた場合でも、長期間話し合いが進まない場合は、双方とも苛立ちを感じ時には交渉において声を荒らげるということもあるでしょう。 感情的になって加害者の人格を否定したり、暴力的な言葉を発してしまう場面もあるかもしれません。
感情的な言葉が常に問題視されるというものではありません。しかし度を越せば不法行為として非難される場合もあります。 どこからが脅迫となるかは明確な線引きはできませんが、例えば暴力団に交渉を頼む、加害者宅で話し合いをしているときに、話が終わるまで帰宅を認めない、支払わなければ 害悪を与えると告げる、などのことが考えられます。脅しや暴力を頼りに解決を目指すようなことは慎まなければなりません。
被害者に対する慰謝料請求が不法行為と認められた事例
骨折等のために妊娠中絶を余儀なくされた被害者が、内縁の夫(X)を通して加害者(Y)と損害賠償の交渉を行っていた。 しばしば意見の対立がみられ、XはYを怒鳴る等のことをしていた。
Xは、治療費のことばかりを気にして、被害者の症状のことを心配しないYの態度に腹を立て、 「どんなに金がないといっても、どんな汚い手を使ってもお前から金を取る」といって、Yを脅迫した。 そのためもともと弱かった心臓の発作を起こし、Yは入院した。 以後、訴外Zが、X宅に出向き、心臓に負担がかかるため、Yには電話をしないよう、また、今後の交渉はZとするように強く申し入れた。
しばらくたって慰謝料の交渉をすべくXがYに電話をかけたところ、Yの夫から強い口調で非難され、逆に慰謝料を請求するといわれた。 さらにその夜、ZがXに電話をし、「お前たちがいかなるやり方でやっても怖くない、監督署は1銭もやる必要はないといった、お前達から金を取ろうと思えば どんなことをしてもとれる」などと過激に申し向けた。
XはYの夫やZの態度に接し、自分らでは交渉できないと考え、暴力団幹部に示談交渉を依頼した。 Yは示談交渉のために暴力団幹部から電話がかかってきたことに動転し、心臓に負担がかかり、発作が起きて入院した。 Yは暴力団が介入してきたことから前途を悲観して書き置きを書くほど心理的に圧迫された。
この裁判では、Xの行った脅迫は、いずれも殊更に相手を畏怖させるものであって、示談交渉としての社会的相当性を逸脱した違法なものというべきであって、不法行為を構成すると いわなければならないと認定された。