搭乗者傷害保険・見舞い金と慰謝料

交通事故オンライン損害賠償編

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伊佐行政書士事務所

搭乗者傷害保険とは

自動車に搭乗中の者が死傷した場合に支払われます。運転者の過失で同乗者が死亡した場合なども、運転者が掛けておいた任意保険から搭乗者傷害保険金が支払われる場合があります。 搭乗者傷害保険は賠償責任保険ではありませんが、このように被害者に支払われた場合は、 損害賠償金の填補と考えることができるのでしょうか、それともまったく別の金銭の授受と考えるべきなのでしょうか。

保険契約者の責任によって異なる

自動車同士の事故で、過失のない被害車両の同乗者に搭乗者傷害保険が支払われた場合は、 その支払いは、もともと加害者とは何の関係もないことですから、損害賠償金の算定に影響を与えるのが妥当でないことは当然のことです。

これに対して自動車一台の自損事故などで、運転者が保険をかけておいて同乗者が死傷した場合は、搭乗者傷害保険の原資となる保険料を負担していた運転者の行為を、 損害賠償金の一部を填補する目的だったと考えることもできます。 ですが、搭乗者傷害保険金は、対人賠償責任保険とは別の性質を有するもので、保険をかける目的も 賠償責任とは別という意思もしくは、保険契約上セットになっていたからという理由でかけていることが多いとも考えられ、 保険契約者が損害の填補となることを期待して保険契約を締結したと擬制することも無理があるように思います。

搭乗者傷害保険は、定額の傷害保険という法的性質を持つものであることからも、損害填補性を認めないとする考え方も有力ですが、 その一方で、搭乗者傷害保険の受領を慰謝料の斟酌事由として捉え、これにより慰謝料を減額する傾向があるように思えます。

判例

【裁判例1】自己の運転を原因として発生した事故により搭乗者が傷害を金をもって見舞金とし、 被害者ないしその遺族の精神的苦痛を一部なりとも償おうとの意思を有していたものと考えるべきであるから、 右保険金の給付がなされていることを慰謝料額算定に当って斟酌するのが相当である。(東京高裁平成2年3月28日判決)

【裁判例2】搭乗者傷害保険金を被害者側が受領したことを斟酌したとしても、それ自体が損害の填補となっているのではない。(最高裁平成7年1月30日判決)

見舞金と慰謝料

事故後、加害者の謝意から、香典や見舞金を贈られることがあります。 しかし受け渡し時に「お詫びの気持ちとして、損害賠償金とは別にお支払いします」などと明示されることは通常ないようですので、 後日加害者側から、「見舞金は損害賠償金の一部に充当するつもりで支払った」というような主張がされ、 「その分は賠償金から差し引きます」などといわれる場合もあります。 被害者側としては、加害者の誠意として受け取ったつもりでしょうから、後からそのようなことをいわれては気が収まらないでしょう。 こういった場合は、どのように解決すればいいのでしょうか。

判例の傾向

いくつかの判例を見てみますと、傾向としては、数万円程度の見舞金は社会儀礼上のもので、損害賠償金の一部ではないとしているようです。しかし金額が 数十万円以上になってきますと、慰謝料の一部というように捉え、損害の填補と認められる例も多くなってきます。結局のところ、基本的には見舞金等は、慰謝料などの損害賠償金とは別物と 考えるようですが、被害者の損害の程度(死亡や後遺障害の程度)、支払われた金額、何の費用として支払われたのかなどにより、個別に検討して決められているようです。